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心に秘めた想い4
「ベッドにある引き出し、開けてみろよ」
俺様が告げた言葉にきょとんとしてから、言われた通りに勢いよく音を立ててそこを開け放つ。
「……ないですねバイブ。どうしたんですか?」
「全部捨てた。もう必要ないだろ」
前だけではイケなくなった身体のために購入した玩具は、今の自分には必要ないものだ。
「もったいない……。太くて長いモノから、変な形をしたモノとか、ごつごつした造りのヤツなんて、実際手放すのがおしかったんじゃないのか?」
「お前にしちゃあ、よく観察したのな……」
「だってこれが江藤さんの好みなんだと思ったら、必然的に見るだろ。へえって」
そんなところに観察眼を発揮されてもな。仕事でそれをやれよ――
「つまりそれが必要なくなったということは、どういう意味か考えてみろ」
「どういう意味って。江藤さんのことだから、隠し場所を変えたんじゃ」
あーもうコイツのアホさ加減には愛想が尽きるどころか、怒りと一緒に愛着が沸いてしまうレベルだ。
「なるほどー。ということは俺様が5本のバイブを使って、夜毎浮気をしてもいいんだな?」
「う、浮気!?」
「だってそうだろ。お前以外のモノを突っ込む行為は、そういうことにならないのか? 嫌じゃないのかよ?」
静まり返る寝室に、俺様の声が妙に響いた。諭すように告げたためか見つめてくる佑輝くんの瞳が揺らめき、何かを言いかけて、ふっと口を噤む。
(ここは何を話すか、辛抱強く待ってやる場面だな)
「江藤さん、ごめん。言いたいことがたくさんあって、その……」
「だったらその中で、一番最初に頭に浮かんだものを言ってみろ」
言葉を促してやったら不安げに揺らめいていた瞳が徐々に光を宿し、目の前にいる俺様の顔を見据える。その視線から目を逸らすことができない。ベッドヘッドのライトがいい仕事をしているのか、二割増しに格好良く見えた。
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