66 / 91
心に秘めた想い6
首を傾げて喉の奥まで咥えようとした矢先に、宮本が勢いよく腰を引いて、口の中からつるんと分身を逃がした。
「何しやがる、これからってときに」
睨み上げながら告げると、さきほどまで浮かべていた表情を消し去り、眉根をうんと寄せて微妙な顔をした恋人の姿が目に留まる。
「……なんで、これからなのでしょうか?」
「は? 気持ち良かったろ、お前」
滅多に使わない敬語で恐るおそる訊ねられ、ぽかんとするしかない。何が一体どうなってしまったんだ?
「確かにすげぇ気持ち良かったですけど、違和感があって」
「違和感?」
「江藤さん、縛られた状態なのに器用にしゃぶってるなって……。さっきもベッドから腰を上げるとき、ふらつかずにさっと立ち上がったから」
(コイツ、妙なところに引っかかりを覚えたな)
「俺様のバランス感覚に、恐れをなしてしまったのか。もっと褒めちぎれ」
言いながらカラカラ笑ってみせた。バカな宮本を煙に巻けると思ったので盛大に笑ったというのに、顔色が一向にすぐれないままだった。
「変だよ江藤さん。いつもなら無言で叩いてきたり、攻撃してくる場面でしょ」
「叩けないようにしたのは、どこの誰だ?」
「本当に可笑しかったら、江藤さんの目はなくなるんだ。嬉しいっていう感情が顔に出るのに今の笑い方からは、それが伝わってこないんだよ」
「はっ! 下半身おっ勃ったまま熱弁されてもな……」
――マズい。誤魔化そうとする傍から崩れていくのが、手に取るように分かる。このままじゃ、黒歴史を披露する羽目になるだろ――
「だって縛られてる江藤さんから妙な色気が漂ってきて、ムラムラしちゃって困ってる」
言うなりぎゅっと抱きついてきた。驚く間もなく、縛られている腕に触れられたのが分かった。ネクタイを解いているらしい。
「江藤さん、困らせるようなこと言ってゴメン。もう気にしないから」
「佑輝、くん……」
「縛った痕、少し残っちゃった。痛くない?」
手にしたネクタイを床に放って、手前に戻した両手首を労わるように撫で擦る。そこから大切にされている自分を感じることができて、すごく幸せだった。涙が出そうなくらい嬉しかった。
高橋は行為が終わるとすぐさま背中を向けていたし、深い傷が残ったらそれを見て悦んでいたんだ。自分のものだという痕跡だと言って――
ともだちにシェアしよう!