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宮本が失踪なんてどういうことだよ!?5

「こう見えてふたりに心配されるほど、ヤワな体じゃないんだけど」 「橋本さんが雅輝の愛情を受け止めるのが、結構大変かと思いまして。こっちの体の具合もお構いなく、容赦せずにヤっちゃうから」  しれっと夜伽の話を持ち出したら、ぎょっとしたであろう雅輝が振り返り、『なに言ってんだよ』と口パクで俺様に文句を言う。 「ハハッ、江藤さんが体感しているからこそ、俺を心配してくださったんですね。一晩どころか次の日に跨いでも、まったく支障ありませんよ」  後部座席から見える橋本さんの横顔は微笑んでいたが、乾いた笑みという感じで、笑い声を出したのに、笑った様子がまったく伝わってこない。 「さすがは橋本さんですね。雅輝のしつこさにビクともしないとは、すごいと思います」  元彼と今彼がやり合うのを目の当たりにした雅輝の視線は、落ち着きなく右往左往していて、困惑してるのが明らかだった。 「雅輝のしつこさというか、ねちっこさに愛情感じることができるので」 「あー、なんかわかるかもしれません。俺様のときよりもねちっこそう……」  橋本さんに負けない無愛想な笑みを頬に滲ませたら、雅輝が助手席で頭を抱えた。 「陽さんも江藤ちんもいい加減にして! 間に入ってる俺の身になってよ」 「俺様は事実を口にしてるだけだぞ」 「雅輝が苦悩してる意味がわからない。江藤さんと世間話してるだけなのに」 「今の会話の、どこが世間話なのさ?」  橋本さんに文句を言う雅輝の顔は真っ赤で、かなり恥ずかしがっているその様子が、俺様と橋本さんの笑いをさらに誘った。 「江藤さんの顔を見てみろ。ただの世間話に羞恥心丸出しの雅輝の情けない姿を見て、心の底から呆れ返っているじゃないか」 「呆れまくって、俺様なにも言えない~」  俺様のややふざけ気味の態度に、振り返った雅輝の顔はしっかり怒っていた。 「江藤ちん!」 「橋本さん、雅輝が橋本さんを嫉妬させることを、わざわざ俺様にしようとしてます。これはあとから、お仕置案件ですよね?」 「雅輝、いい加減にしろよ。どんだけお仕置されたいんだ、おまえは」  橋本さんの左手が、雅輝のおでこにデコピンをお見舞いする。 「痛い! 陽さんの指力は半端ないのに!」 「江藤さんに無駄絡みするからだろ。俺に見せつけるなよ」  口では文句を言っているが、橋本さんの表情は明らかに仕掛け人という感じだった。  こうして二人で天然の雅輝を翻弄したおかげで、三笠山に到着するまでに、気がかなり楽になったのだった。

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