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宮本が失踪なんてどういうことだよ9

「ここで夜を過ごしながら、いろんなことを考えてた。江藤さんのこととか、これから先のこととか。あとね、スマホの予備のバッテリー持ってなかったのに、これがリュックの中にあったことに驚いちゃった」  宮本は脇に退けてあったリュックサックを手に取り、ガサガサ音をたてて、中身が見やすいように大きく開いてくれた。 「それは俺様があげた、うんまい棒じゃないか……。どうしてそんなものを持ち歩いていたんだ?」  宮本佑輝という男は、その日に決めた仕事のノルマが終わらないときは、必ず残業する。それゆえに小腹がすくであろうと思ったときと、ちゃんと仕事を終えることができたときにご褒美として、うんまい棒をあげた。それは毎日じゃなかったが、なにかある度にうんまい棒を数本単位で与えていたのだが。 (多く与えていても1日3本まで。それなのにどうしてコイツは、リュックの中身が埋まるくらいに持っているんだろう? ってそれだけ俺様が、宮本に与えていたという証拠なんだな) 「江藤さんから貰うたびに、ちょこちょこ食べていたんだけど、全部食べるのがもったいなくてさ。気づいたらリュックの半分をうんまい棒がしめていたということで、ここでの俺の非常食になっていたんだよ」 「バカだな。俺様が捜しに来なかったら、こんなのあっという間になくなってるだろ」  腕の力を抜いて、あらためて宮本と対峙する。たった一日逢ってなかっただけなのに、なぜだか格好良く見えてしまうのは、それだけコイツのことが好きだという証なのかもしれない。 「絶対に江藤さんが捜しに来るっていう、変な確信があった。だって俺の運命の人だもん。それに祠にお願いしたし。恋愛長寿って」 「変な四文字熟語を作るな。まったく相変わらずだな、宮本は……」 「末永く江藤さんと仲良くしていたいっていう、俺の気持ちを込めたんだけど。これって駄目なの?」  背中にある宮本の両腕が、離れた距離を強引に縮めた。そのせいですぐ傍にある唇に、吸い寄せられるようにキスをする。重なった部分から宮本の体温が伝わってきて、安堵感が増していった。 「駄目じゃないけど、音信不通になったり行方不明になったのは、めちゃくちゃ駄目なことだからな。次からはなにがなんでも、俺様を絶対に連れて行くこと」 「え~っ。それじゃあ、ナイショなことができないじゃないか」

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