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過去の想い:愛をするということ6
いい人だと思って慕ったバカな自分に心底嫌気が差したのと、ワケの分からない薬を使われた時点で逃げられないと観念した。もしかしたら薬の作用で、抵抗する気力を奪われたのかもしれない。
唇に石川さんの唇が重なり、にゅっと舌が忍び込んでくる。仕方なく目を閉じて、それを受け続けるしかなかった。
されるがままでいると腰に巻いているバスローブの紐が解かれ、さっさと脱がされた。半裸をまじまじと見つめられ、恥ずかしさで頬に熱を持った。
「本当に、綺麗な躰をしているね。堪らないよ」
言うなり胸元に顔を埋める。舌先を使って執拗に乳首をぐりぐりされても感じるどころか、くすぐったさしかない。
「石川さん、くすぐったいです」
「最初はそんな感じだろうけど、感度があがれば自然と感じられるから。くすぐったいと言ってるけど、乳首が勃ってるよ」
その言葉に顔を上げて胸元を見たら、弄られた乳首がピンとしているではないか。
「乳首だけじゃないよ。ここだってほら……」
意味深に目を細め、その瞳にうれしさを滲ませてから下腹をを覗き込み、トランクスの上から下半身をぎゅっと掴まれてしまった。
「んんっ!」
石川さんに掴まれたそこは完全じゃなかったけど、ちょっとだけ形を変えていた。
「あうっ、あっ、はあ、あ……っあ、あっ」
ゆるゆると触れられるたびに、硬度を増していく――他人に触れられるもどかしさを感じつつも、何とも言えない快感に引きずられるように腰を上下してしまった。
「素直なはるくんはかわいいね。ご褒美に、もっと気持ちのいいコトをしてあげるよ」
「もっと……気持ちのいいコト?」
「ああ、だから腰を上げて」
言われたとおりに腰を上げるとトランクスを脱がして、露なった下半身を手にする。
「下着の上からちょっと触っただけなのに、こんなに硬くして。エッチなんだな」
「それは……はじめて人に触れられたせいで、感じてしまっただけで」
「そんないいわけは通じないよ。躰は正直だからね。俺の言葉だけで、汁をこんなに溢れさせてるくせに」
言いながら、先端を指先で弄りはじめた。
「っあ、だめ……や、やああ……」
ぬちゃぬちゃという卑猥な音が部屋に響き渡り、あまりの恥ずかしさに右手で顔を覆い隠す。自分があげてしまった甲高い声も、恥ずかしさをさらに助長する形になった。
「たくさん溢れて汚れてしまったココ、綺麗にしてあげるよ。すごく美味しそうだ」
いつもより低い石川さんの声が耳に届くと同時に、下半身が生暖かいものに包み込まれる。手でするのとは違うその感触は、想像していた以上にとても気持ちのいいものだった。
「あうっ、あっ、はあ、あ……っあ、あっ」
声を抑えようとしても、ぞくぞくとせり上がってくる快感に突き動かされて自然と漏れてしまう。最初に感じていた恥ずかしさも、気がついたらどこかにいってしまった。
根元を手で扱いて、じゅぷじゅぷとよだれを滴らせながら責められているうちに、どんどん追いつめられていく。
「もぉ、はぁあっ……いっイキそ」
息も絶えだえに口を開くと手の動きがぴたりと止まり、口内を包んでいた暖かさからも、一気に解放された。
「はるくんのぴくぴくして、本当にかわいい。もう少し遊びたいから我慢してね」
「が、まん?」
「そうだよ。いっぱい我慢してからイクと、すごく気持ちがいいんだ。それを味わわせてあげる」
下半身に頬擦りしてから口に含み、さきほどと同じように何度も責めたてられてしまった。
「ぁっ……いやだぁっ、いっ! イキたいっ」
涙ながらに訴えても全然聞いてはもらえず、幾度となく我慢を強要させられた。根元をぎゅっと押さえつけられているせいで、とても痛くてつらくて――出したくても出せないもどかしさに頭がおかしくなりかけたとき、四つん這いになるように指示された。
寸止めされ続けた下半身の痛みを感じながら、仕方なくそれに従った。このあと間違いなく、石川さんのを挿入されるだろうと予想したのに――入口に挿ってきたのは柔らかい舌先で、べろべろと出し入れを繰り返す。
乳首を責められたときのようなくすぐったさにも似ていたけど、違う種類のムズムズした快感も微妙にあって。
「はぁあ、んっ……ううっ」
「しっかりココを濡らして、指を挿れて馴らしていくからね」
言い終わらないうちに、指が1本ずるりと入ってきた。何度か出し入れしてから指が増やされ、中を探るように指先が微妙に蠢く。
「な、んか変……あっ、そこ」
「気持ちいいだろ。俺のでたくさん感じさせてあげるからね」
出し入れしていた指を抜き去ると石川さんのモノが、入口からゆっくりと侵入してきた。
「ううっ、あ、ああぁっ」
指とは明らかに違う圧迫感がつらくて、思わず声が出てしまった。
「くるし、い……も、ダメ……」
「奥歯を噛み締めないで、口を開けっ放しにしたら少しは楽になる。ほら、もうすぐ全部挿いるよ」
「はあはぁ、あっ……ぁあっ!」
両手が腰に添えられるやいなや、いきなりズンと奥まで突き立てられた。その衝撃で、下半身からぽたぽたと布団の上に汁が零れ落ちていく。
「ぬ、抜い……いっ、んんっ。そこっ、やだっ……いやだっ!」
指先で弄られたときに感じたところを、石川さんの大きなモノがそこを狙って、しつこく擦りつけてきた。何とも言えない妙な感じがすごく嫌で首を振って拒否しているのに、それを無視してさらに続けられる。
「ぁっ、いやだぁっ、いっ! 石川さんっ……いっ…いやなのにっ……は、っ……あぁ、くっ……」
「ははっ、すごく感じるだろ。そのかわいさに免じてイカせてあげるね」
片手で躰を抱きしめ、空いた片手で下半身を掴んで扱きはじめながら、ぱんぱんと音を立てて腰を振り出した。
「うぁあぁっ、あっ、あっああっ、イクぅっ!!」
それはものの数秒だった。射精する瞬間は気持ち良かったのに、その後だらだら放出を続けているときは、頭の芯まで痺れてしまって快感なんかまったくない状態が続いた。
倦怠感でベッドに突き立てていた両腕が折れて、ゼイゼイと息を切らしながら下唇を噛んで俯く。
(はじめてが、こんなに最低なものになるなんて――)
「はるくん、休んでる場合じゃないよ。俺はまだイってないんだからね。ほら、しっかり腕を踏ん張ってくれよ」
全力で後悔しているところに命令されたが、黙ってそれに従った。変に逆らって、痛いことをされたらたまったもんじゃないと考えた。言われたとおりに従ってさっさとこの行為を終わらせようと、重い躰に鞭を打ち、積極的に自ら腰を振った。
(――早く終わらせるんだ。さっさと解放されるために)
その一心で必死になって、全身を揺さぶった。イってしまってからはまったく気持ち良さなど微塵もなくて、石川さんのモノで貫かれているだけの行為になっていた。
「そんな風に感じさせてくれてうれしいよ。熱いのをはるくんの中に、たくさん注いであげるからね」
ああ、これで終わる。楽になれるんだ――
そう思ったら夢中になって、腰を振ることができた。
「ああ、いい。すごくいいよ。もう我慢できないっ、くうっ!!」
「あぁあっ……。はあはぁ、んっ」
ぎゅっと目を閉じて中にぶちまけられる衝撃を感じているとつながっていたモノを抜き取り、息つく間もなくベッドの上へ仰向けに押し倒されてしまった。
「なっ!?」
突然のことで動けずにいたら石川さんがさっと跨ってきて、同時にスマホを構える。逃げる間もなく、シャッター音が部屋に響いた。
「はるくんとの、はじめての記念に写しちゃった」
「や……。消してください」
「消すわけないだろ。せっかくの記念なんだし、それに――」
起き上がってスマホを奪おうと手を伸ばしたらフラッシュが焚かれ、ふたたび写真を撮られた。
「この写真を掲示板に晒されたくなければ、俺の言うことを聞くんだ。いいね?」
「そんな……」
「とりあえず今のは写りが悪いから削除して、スマホをロック。これでよし!」
ショックで固まる自分を尻目に手早く操作し、軽快な鼻歌でご機嫌な様子を表しながらサイドテーブルにスマホが置かれるのを、呆然としたまま見つめることしかできなかった。
「これを壊そうなんて考えないほうがいい。江藤正晴くん」
「どうして名前を――」
考えを先読みされただけじゃなく自分の本名を言い当てられて、見えない恐怖を感じた。
「君が喫茶店でトイレに行ったとき、鞄に入っていた身分証を見ただけ」
「…………」
「さっきの写真を見せながら、はるくんがゲイだってことをお友達に教えたら、さぞかし信ぴょう性が増すだろうね」
下卑た笑みで見下ろしてくるこの男の前では、あまりにも自分は無力だ。どうしてこんなヤツに、心を許してしまったんだろう。
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