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ゲイバー・アンビシャスの憂鬱2

「忍ママのことは無視して乾杯するぞ。早くグラスを持ちやがれ」 「江藤ちん、それって酷くなーい?」  江藤の催促であたふたしながらグラスを持った宮本。ぎこちない笑みを見つつ、自身のグラスをカチンと当てて乾杯してやった。 「酷い言葉を吐き捨てたのはどこの誰だよ。まったく……」  じと目で忍ママの顔を見ながら、ぐびっとミントジュレップを煽った。水割りされたそれは、なぜだかいつもよりバーボンの味が濃い気がする。 「これ、すっごくうめぇ!」  感嘆の声をあげた宮本を、してやったりな表情で見つめる忍ママの顔が気持ち悪い。あからさまなドヤ顔は不快感しか沸かなかった。 「俺、甘いものが苦手だけど、この酒なら何杯でもいける! ミントのスカッとした感じが、口の中に残るせいなのかな」  まじまじとグラスの中身を見つめるうれしそうな宮本が見ることができて、ここに連れてきて良かったとちょっとだけ思った。 「江藤さんと一緒に、美味しい酒を飲むことができて幸せかも~」 「宮本、おまえのグラスを寄越せ」 「へっ?」  トロくさい恋人の返事を待たずにグラスを奪い取り、一口飲んでみる。 「おい忍ママ。これは、どういうことだよ!?」  呆けたままでいる宮本にグラスを戻しながら訊ねてみた。 「どういうこともそういうことも、何のことかしらぁ?」 「すっとぼけるんじゃねぇよ。コイツと俺様のバーボンの濃度が全然違うだろ!」 「いつぞやの夜のように、記憶がなくなった江藤ちんとヤりたいかなぁって気を利かせてあげたのよ。ねっ、宮本!」  忍ママにウインクを飛ばされた宮本は、ぶわっと顔を赤くした。そのときのことでも思い出しているだろうか。  心情ダダ漏れさせるんじゃねぇよ、バカだなコイツは……と思ってる江藤の気持ちを露知らずに、宮本はみっともない顔を思いっきり晒し続けた。 (くそっ、面倒くさいことになりそうだ。他の客がいないのをいいことに、宮本を使って俺様を落とし込む作戦でいやがる。ただ美味い酒を、宮本と一緒に飲みに来ただけなのに)  誰か早く来店してくれという江藤の願いが届いたのか、ドアベルの音とともに誰かが入ってきた。

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