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ゲイバー・アンビシャスの憂鬱4

「見惚れていたんじゃねぇよ、不思議だったんだ。忍ママと初見なのに驚かず平静でいられたことに違和感があって、どうしてだろうって見ていただけだ」  宮本の両手首を掴んで力任せに外し、自分を最低呼ばわりした忍ママに睨みを利かせてやる。  本人は念入りに女装をしていると思っているらしいが、今夜に至っては、髭が薄っすら生えていることに気がついていないらしい。だからこそこの格好を見て、驚かない方が不思議なんだ。 「勿論驚いていますよ。その美しさに、ね……」  気がつけば井上という客がカウンター席を一つ分あけて隣に座り込み、江藤に向かって微笑みかけた後に、忍ママに流し目をする。 「いやぁん、そんな目で見つめられたらドキドキしちゃうじゃないの!」 「井上ぇ、こんな店長に色目を使うなよ。千秋ちゃんに言いつけてやるぞ」 「何を言い出すかと思えば。レイン先輩、俺は至って普通にしているだけですが」  どこが普通なんだよ。あからさまに忍ママを見る目がおかしかったと思われる。 「江藤ちん、そんな風に不機嫌な顔をしていたら宮本が怯えるでしょ。井上さん、そこに座ったからにはウチの店に会員登録してもらうわよ。ご記入お願いします!」  江藤に注意を促しながら、予め用意していたであろうボールペンと登録用紙を井上の前に置く。すると嫌な顔をせずに積極的にかき込みを始めた。 「こんな時間に秀ちゃん待ちってことは、今夜はお店を休みにしたのかしら? とりあえずウーロン茶でもどうぞ!」  井上の隣に座ったレインに、タンブラーに入れたそれを手渡した忍ママの視線は相変わらず、イケメンにねっこりと貼りついたままだった。 「まったく……。コイツを連れてるとどこに行っても、面倒くさいことになるな」  あからさますぎる忍ママの態度に辟易したのだろう。レインは愚痴をこぼしながら井上に肘を当てまくる。 「あの、おふたりって、もしかしてホストさんですか?」  物怖じしない宮本が江藤を押しのける勢いで躰を寄せて、質問を投げかけた。  傍に座っている井上は上にブルゾンを羽織り、下は綿パンという出で立ちだったが、レインの格好が見るからにホストのようなスーツ姿だったからこそ、アホな宮本でも職業を言い当てることができたと思われる。 「ブーッ! 外れ」 「「えっ!?」」

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