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ゲイバー・アンビシャスの憂鬱5

 宮本と同じタイミングで声をあげてしまった。しかも外してしまったことに落胆を隠せない。 「レイン先輩、中らずと雖も遠からずなのに、不正解にするのは可哀想じゃないですか」  江藤たちの顔を済まなそうに見ながら文句を言った井上を、レインはカウンターに頬杖をついてこちら側を眺めた。 「俺が現在働いている場所はメンキャバだ。ホストクラブじゃねぇし」 「メンキャバというのは、正しくはメンズキャバクラの略なんです。ホストクラブよりもリーズナブルな料金で、女性が利用できる場所でして……」 「ホント、レインくんってばイジワルなんだから。やってることはホストと変わりないくせに」  忍ママが頬を膨らませて、デカい顔をアピールするように怒った。 「江藤さん、メンズキャバクラなんて初めて聞きますね」 「まぁな。俺たちが絶対に行かない場所だし」  宮本の言葉に江藤が反応して返事をしたら、一番奥にいたレインが声を立てて笑う。 「確かに。野郎は行かない場所だから、知らないのは当然か。ちなみにそこで働く従業員は、キャストって呼ばれてるんだ。そんでもってこの井上は、繁華街で一番儲かっているホストクラブのナンバーワンホストで、支店だったメンキャバに転職してもナンバーワンになった逸材なんだぜ」 「もう昔の話ですし、やめてください。店長さん、会員書を書き終えました」  井上が手にした紙を忍ママに手渡そうとした瞬間に、隣にいるレインがそれをひったくった。 「なんだよ、これ。面白味がねぇな。ニックネームは井上よりも、こっちのほうが店長が喜ぶだろ」  テーブルに置きっぱなしのボールペンで何かを書き込み、笑いながら忍ママに手渡した。 「レインくんってば、粋なことをしてくれるじゃないの。穂鷹ってホスト時代の源氏名かしら?」  きゃぴきゃぴした忍ママの声が店内に響いて、あまりの煩さに江藤は耳を塞いでしまった。 「義理の兄が考えてくれたものなんです。本名をローマ字にするよりも、漢字のほうがインパクトがあるからって」 「でもって現在の井上の職業は漁師なんだ。だから一番奥の君がした質問が不正解っていうワケ」  宮本に向かってウインクをしたレインを見てから隣を見ると、『そっかー』なんて呟きながらグラスの酒を飲む、KYな恋人の姿にホッとした。  どこか誘うような仕草だったウインクも、宮本にかかると効力がないらしい。

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