75 / 91
ゲイバー・アンビシャスの憂鬱5
宮本と同じタイミングで声をあげてしまった。しかも外してしまったことに落胆を隠せない。
「レイン先輩、中らずと雖も遠からずなのに、不正解にするのは可哀想じゃないですか」
江藤たちの顔を済まなそうに見ながら文句を言った井上を、レインはカウンターに頬杖をついてこちら側を眺めた。
「俺が現在働いている場所はメンキャバだ。ホストクラブじゃねぇし」
「メンキャバというのは、正しくはメンズキャバクラの略なんです。ホストクラブよりもリーズナブルな料金で、女性が利用できる場所でして……」
「ホント、レインくんってばイジワルなんだから。やってることはホストと変わりないくせに」
忍ママが頬を膨らませて、デカい顔をアピールするように怒った。
「江藤さん、メンズキャバクラなんて初めて聞きますね」
「まぁな。俺たちが絶対に行かない場所だし」
宮本の言葉に江藤が反応して返事をしたら、一番奥にいたレインが声を立てて笑う。
「確かに。野郎は行かない場所だから、知らないのは当然か。ちなみにそこで働く従業員は、キャストって呼ばれてるんだ。そんでもってこの井上は、繁華街で一番儲かっているホストクラブのナンバーワンホストで、支店だったメンキャバに転職してもナンバーワンになった逸材なんだぜ」
「もう昔の話ですし、やめてください。店長さん、会員書を書き終えました」
井上が手にした紙を忍ママに手渡そうとした瞬間に、隣にいるレインがそれをひったくった。
「なんだよ、これ。面白味がねぇな。ニックネームは井上よりも、こっちのほうが店長が喜ぶだろ」
テーブルに置きっぱなしのボールペンで何かを書き込み、笑いながら忍ママに手渡した。
「レインくんってば、粋なことをしてくれるじゃないの。穂鷹ってホスト時代の源氏名かしら?」
きゃぴきゃぴした忍ママの声が店内に響いて、あまりの煩さに江藤は耳を塞いでしまった。
「義理の兄が考えてくれたものなんです。本名をローマ字にするよりも、漢字のほうがインパクトがあるからって」
「でもって現在の井上の職業は漁師なんだ。だから一番奥の君がした質問が不正解っていうワケ」
宮本に向かってウインクをしたレインを見てから隣を見ると、『そっかー』なんて呟きながらグラスの酒を飲む、KYな恋人の姿にホッとした。
どこか誘うような仕草だったウインクも、宮本にかかると効力がないらしい。
ともだちにシェアしよう!