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第7話
和雄さんは、父達の真の関係を知らない。いくら知己と言えども、父は彼に明かしていなかった。
――浮気や不倫は論外として、同性との恋愛についても人は嫌悪し、異様に思うものです。
かつて、私にすべてを告白してくれた時、みっちゃんは淡々とそう言ったのを思い出す。
確かにそうだ。男同士が愛し合うことに、生理的嫌悪感を抱いてしまう。仕方がないことだ。
「お前がその気なら、ツテがあるから紹介してやるよ」
「……そうですね」
和雄さんの申し出をきっぱりと断ることもできず、みっちゃんは曖昧な笑みを浮かべ言葉を濁す。空になった彼の湯呑みを見て「もう一杯飲まれますか?」と訊ねた。
「いいや、この辺でお暇するよ」
和雄さんは首を横に振り、よっこらしょと腰をあげた。私達も揃って立ち上がり、皆で玄関へと向かう。
「――けどまぁ、あの戦争で伴侶を喪くして再婚する人間が多い中で、お前は八重さん一筋だよな」
三和土で草履をはいた和雄さんが、どこか哀しげに、けれども感心して父に言う。「彼女が亡くなってすぐのお前を知ってるからよ。あの時はどうなることかと心配したが……あぁ、どうも。いつも悪いね」
言い方は悪いが、話を遮るようにお布施を渡せば、和雄さんは恭しく受け取り、何度も頭を下げた。それでも、彼の口は止まらない。
「統の手助けがあったにせよ、男やもめで娘を育てあげるなんて、なかなか出来るもんじゃない。八重さん、喜んでるだろうな」
「だといいがな」
父はくすりと笑った。私は咄嗟にみっちゃんを横目で見るも、彼も特出した感情を顔に出すことなく、柔和に微笑んでふたりを見ていた。
「……けどな、和雄。俺は案外、一筋でもないんだぜ?」
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