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第9話
父と顔を見合わせる。状況を把握したのか、父は困惑しきった様子で頭を掻いた。
「何をどう解釈したら、あんな考えになるんだ」
「うぅん……」
これには私も、こめかみを掻いて唸る他なかった。
みっちゃんは大きな誤解をしている。
父は自分との関係を愛人「以上」だと言ったが、彼はそれを愛人「以下」、つまりは男娼だと受け取ってしまったのだ。
一体なぜ、そんなことになったのか。私は父の傍に腰をおろし、仰々しく肩を竦めた。
「十五年も一緒に暮らして、これは致命的だわ」
父は無言だった。
「ちゃんと言葉にしてなかったの? それもお互いに。みっちゃんはまぁ分かるとして、普段はあれだけ好き放題言ってるお父さんが、どうして?」
父はふんと鼻を鳴らした。しかし私が睨めば、決まりが悪そうにそっぽを向く。まったく、世話がなかった。
「そういうことはお父さんから伝えるべきよ」
「察すればいいものを」
父の反論に「いいえ」と反発する。「言葉にしないから、みっちゃんを傷つけたのよ。分かる? 大切な人を、お父さんは悲しませたの」
血の気が多いのは誰に似たのやら、まなじりを決して訴えれば、父は低い呻き声を漏らし、伏し目がちに大きな溜息をこぼした。
みっちゃんを家に連れてきた当時、父は戦争による空襲で妻――私の実母を亡くし、蛆がわくような生活を送っていた。
しかし、三人で暮らすようになってからは、伸び放題だった髪は綺麗に切り揃え、筆のような髭もさっぱりと剃り、悪臭を漂わせていた着物を新調した。誰が話しかけてもまともに言葉を返さず、煎餅のような薄い蒲団でひねもす横臥していたのが、人が変わったかのように明るく活発になった。
齢七つだった私には、父の唐突な様変わりの理由が分からなかったが、昔の父が戻ってきて嬉しくて仕方がなかった。父の背中によじ登ってけたけたと笑い、父も磊落に笑う。とても幸せだった。叔母――二年前に肺を患い他界した父の姉も、泣いて喜んでいたのを覚えている。
大人になった今、すべてが分かる。
父はみっちゃんに惚れたから、妻を喪った悲しみから立ち直り、身嗜みや生活態度を改めたのだと。
そしてみっちゃんもまた、父を深く慕い、かれこれ十年以上、献身的に世話をしてくれていた。
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