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第10話
「――何て言えばいいんだ」
季節外れのホトトギスの鳴き声、近所の工事音が我が家にも響く中、父の声はそれらに掻き消されそうなほどに小さかった。
「それくらい自分で考えなさいよ」
「お前、さっきから親に向かって口の利き方がなってないぞ」
「説教は後でたっぷり聞くから、早く行ってあげて。でないとみっちゃん、家を出て行くかも」
脅しが効いたのか、父は溜息を吐き散らしながらも、意を決した顔つきで腰を上げた。洋装が定着した昨今、「俺は着物しか着ない」と言い続け、今日の法要も黒の着物に紋羽織で出席した父は、皺になった裾を気にも留めず「統と話してくる」と言って居間を出て行った。
縦に長い後ろ姿を見送った後、やれやれと溜息をつく。少し言い過ぎたが、彼らにお節介を焼けるのは私しかいないので、これで良かったのだろう。
長い年月を共にしても、口にすべきことは必ずある。
以心伝心でいるためには、まずは言葉で伝え合い、互いの胸のうちに染み込ませる他ない。
――かつて、みっちゃんは私に言った。
優しいけど怒りっぽい。それは優しいから怒りっぽいのだと。
それと同じだ。愛しているけど不安になるのではない。愛しているから不安になり、不安になるからこそ言葉や態度に示すべきだ。先程のふたりの衝突がそのきっかけになったのだとすれば、父の軽口は怪我の功名だったのかも知れない。
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