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エピローグ

「シオーン、準備ができたか?」  ノックをして、アオはシオンの部屋に入る。 「ああ。ーーちょっと待て」  出かける準備をしていたシオンは、先に部屋を出ようとしていたアオを引き止めると、アオの首からぐるりとマフラーを巻いた。 「ああ? マフラーなんていいよ」  そんなに寒くないから必要ないと、シオンが巻いてくれたマフラーをアオはとろうとするが、すぐにダメだと言われてしまう。アオは腕を組むと、うーん、とシオンを見た。 「なあ、お前ってちょっと過保護じゃね?」 「いまは大事な時期だから風邪を引いたら大変だ」  せっかくほどいたマフラーを再び巻かれ、ちゅっと頬にキスされる。アオはわずかに頬を染めた。  あの後、シオンに連れていかれた病院で、アオは妊娠六週目に入っていることがわかった。つまりは、あの体調の悪さは悪阻だったわけだ。そのままさらわれるように屋敷に連れ戻されたアオだったが、実は花屋の仕事をめぐって、シオンとひと悶着あった。当然のことのように仕事を続けようとしたアオは、部屋に閉じこめようとしたシオンに反発して、屋敷を出ようとした。渋々折れたのは、シオンのほうだ。その代わり、花屋の行き帰りはシオンが一緒についてくることと、例え彼の仕事が忙しいときでも、必ず誰かを迎えに呼ぶことを了承させられた。それから、万が一体調が悪いときは、無理をせず休むことも。  シオンはセツのことも警戒しているようで、アオと一緒に働くことを内心はよく思っていないようだった。  ーーあいつはお前のことが好きだ。  真面目な顔でそう言ったシオンを、アオは何バカを言ってと一笑に付したが、実はあの後セツから、「アオは僕のヒーローだった」とそれに近いことを言われたのは秘密だ。  屋敷に戻ってまず驚いたのは、シオンの部屋にアオが作ったミニブーケがすべて大事そうに残されていたことだ。それを見たとき、こいつは実はアホだろうと思ったのと同時に、アオは胸が熱くなった。シオンが本当に自分のことを好きだという気持ちが痛いほどに伝わってきたからだ。  マリアは、大学に入り直すのだという。シオンとはいいのか? とおそるおそる訊いたアオに、マリアは心底驚いた顔をして、それから何をバカなことを言っているんだとばかりに、明るい笑い声を上げた。  きょうは、アオの仕事が休みなため、リコたちと外でランチの約束をしている。時間までシオンと公園を散歩しようと話をしていた。  アオの腹の中で、シオンとの子どもは順調に育っている。 「あ、そうだ。ちょっと待ってて」  アオはシオンをその場に残すと、いったん部屋を出た。それからドアの前に隠していたミニブーケを持って、部屋に戻る。 「シオンこれ」  紫色の花束を差し出したアオに、シオンは目を瞠った。「紫苑の花だ。店で見つけたときに、お前にあげたいと思って・・・・・・」  驚いた表情を浮かべたまま、シオンに沈黙されて、アオはもじもじっとした。なんだか妙に気恥ずかしくなってきた。 「あ、あの・・・・・・」  ミニブーケを下げようとしたアオは、ふいにシオンに抱きしめられる。 「・・・・・・アオ。好きだ。愛している」  後頭部に顔を埋めるようにささやかれ、アオは胸がぎゅっと締めしめつけられた。片方はミニブーケを持ったまま、もう片方の手をシオンの背にまわす。 「・・・・・・俺も。俺も愛してる」  シオンの身体からは、ほっとする匂いがする。そのとき、シオンが驚いたように身体を離した。 「・・・・・・いま動いたか?」  アオの腕をつかんで、神妙な顔でそんなことを訊ねる。 「さすがにまだ早いよ」  あたたかなものが胸に広がる。アオは、ふふっとほほ笑んだ。 「もういこうぜ」  アオはグラスに水を入れると、その中に紫苑のミニブーケを挿した。それからシオンとふたり、部屋を出た。 END

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