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第17話 清忠

学校が終わり、清忠と一緒に俺の家へ向かう。 俺の家の最寄り駅に着いて改札を出た所で、清忠に声をかける男がいた。 「清忠、こんな所で何をしている」 びくりと肩を跳ねさせて、清忠は声がした方を恐る恐る窺う。 「兄さん…。あ、あの…今から友達の家に…」 「ふん、いい身分だな。そんな暇があれば、もっと勉強に励んだらどうだ?まあ、おまえがどうなろうが、俺の知った事ではないが。俺の顔に泥を塗るような事だけは、やめてくれよ」 清忠が兄と呼んだその男は、言いたい事だけを言い終えると、2人の男を引き連れて改札を入って行った。 清忠は、手をぎゅっと握りしめて、兄が去った方を見つめている。俺は、彼の手が小さく震えているのに気付き、彼の前に回ると、腕を伸ばして意外と柔らかい髪の毛を撫でた。 「なっ、何してんだよ…」 「ん?なんとなく…。てか、少し屈め。腕が痛いわ」 「あー、凛ちゃん小ちゃいもんね…」 「小さくない!俺は普通…の筈だ……」 さっきまでの辛そうな表情が消えて、笑いながら清忠が腰を屈める。いつもの明るい清忠に戻って、ほっとした。 「今の人、俺の兄さんでさ…。見た通り、すごく綺麗だったろ?その上勉強も出来て、俺は何をしても兄さんを越える事が出来ないんだ…。だから、家族も周りも兄さんを持ち上げて、俺なんて眼中にもないんだぜ。まあ、あんな何でも出来る奴が傍にいたらしょうがないよなぁ…」 俺は清忠の頭から腕を下ろして、ぼそぼそと呟く彼の顔をじっと見つめた。 「な、なんだよ…」 俺の視線に気付いた清忠が、ばつが悪そうに俺から視線を逸らす。 「んー?清の気持ち、なんとなくわかると思って。俺も兄ちゃんがいるけど、結構、出来がいいんだよな。親はそうでもなかったけど、兄ちゃんは俺に対して偉そうだったよ?でも、清ん家はもっと大変そうだな…。まあ、いいじゃん。兄ちゃんは兄ちゃん、清は清のやりたいようにしてたらいいんだよ。だって、俺は結構、今の清が好きだし。それにさ、周りが皆んな敵でも、俺は清の味方だし。なっ」 俺は、俺の言葉にじっと耳を傾けている清忠に笑って見せた。すると、いきなり清忠が、がばっと俺に抱きついて来た。 「うわっ、何?」 思わず後ろによろけそうになるのを、清忠がしっかりと抱き留める。しばらく俺に抱きついたまま動かないから、俺はそっと彼の背中を撫でた。すると、何かに気付いたように、清忠が俺の首に鼻を寄せて匂いを嗅ぎ出した。 「えっ、どうしたの?もしかして臭い?」 「いや…、なんかすげーいい匂いがする。なんだろ…なんか甘い感じ。香水つけてる?」 「つけてない…。え〜、なんだろ…」 くんくんと匂いを嗅いでいた清忠が、いきなりぺろりと俺の首を舐めた。 「ひっ!な、何するんだよっ。やめろっ」 俺は清忠の胸を力一杯押して、身体を離した。舐められた首に手をやり、清忠を睨みつける。 「こめんごめん。美味そうな匂いだったから、つい。でも、凛ちゃん、匂いだけじゃなく甘い味がしたぜ」 「つい、じゃねーっ。謝って済むかっ。次やったら友達やめるからな…っ」 「わかったわかった。ほんと、ごめんっ」 俺に手を合わせて謝る清忠を見て、とりあえずは許してやる事にする。清忠は本当に反省してるのか、ちらりと見えた口元が緩んでいるのが見えた。

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