23 / 287

第23話 罠

「さあ、どうぞ」 宗忠さんが、俺の前に紅茶の入ったカップとソーサーを置く。 「砂糖はいるかな?」 「いらないです…。いただきます」 紅茶のカップに口を付けると、甘くて爽やかないい匂いがした。紅茶の中にはたまに、口の中に渋みが残る物があって、俺はどちらかというとコーヒーが好きなんだけど、この紅茶はとても美味しくて飲み易く、あっと言う間に飲み干してしまった。 「ふぅ…、ほんとに香りが良くて美味しい」 俺が感想を述べると、宗忠さんは嬉しそうにお代わりを注いでくれる。 「口に合って良かったよ。君の為に特別にブレンドしたからね…」 ゆっくりと口の端をつり上げたその顔を見て、俺の中を冷たいものが走り抜けた。何かに気付いた清忠が、宗忠さんを問い詰める。 「兄さんっ、もしかして…っ。凛ちゃんには手出ししないって…っ」 「左近、右近(さこん、うこん)」 「「はい」」 宗忠さんの声に、2人のスーツを着た男が入って来て、清忠を両脇から抑えつけた。 「は、離せっ!何すんだよっ。やめろっ!」 「おまえは邪魔だ。端の部屋に閉じ込めておけ」 「「はい」」 2人が同時に頷き、暴れる清忠をがっちりと掴んで部屋から出て行こうとする。 「ちょ、ちょっと待ってっ。清をどうす…る…」 清忠に向かって手を伸ばしたはずが、全く力が入らなくてぱたんとテーブルの上に落ちてしまった。 目の前の景色がぐるぐると回って、今にも倒れそうになる。 「な、んで…、俺…」 「凛ちゃん!」 清忠の叫び声が扉の向こう側に消え、宗忠さんが俺の腕を掴むと、隣の和室へもの凄い力で放り投げた。

ともだちにシェアしよう!