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第38話 新たな関係
銀ちゃんが完全に力の抜けてしまった俺を抱えて、俺の荷物を取りに、鉄さんの家へ向かった。
庭に降り立つと、鉄さんが部屋から飛び出して俺の元へ駆け寄って来た。
「凛くんっ、大丈夫?酷い事言われてない?」
俺の手を握り眉尻を下げて心配してくれる鉄さんに、俺は笑って手を握り返した。
「大丈夫です。心配かけてごめんなさい…。あと…、今日は銀ちゃんの所に泊めてもらいます」
「そう、良かった…。えっ?なんで?」
銀ちゃんが、俺と鉄さんの間に割って入り、俺を腕の中に閉じ込める。
「俺の婚約者だからだ。俺の傍にいるのが当たり前だろ」
「あ…、そ、うだよね…。凛くん、仲直り出来て良かったね…」
「はいっ。鉄さん、連れて来てくれてありがとうございますっ」
俺はぺこりと頭を下げる。鉄さんは、笑って俺と銀ちゃんを見ていた。でもその笑顔の奥に、微かな暗い影が潜んでいる事に、俺は気付かなかった…。
銀ちゃん家の屋敷もとても広い。俺は客間ではなく、銀ちゃんの部屋に泊まらせてもらう事になった。
銀ちゃんの部屋は屋敷の端にあって、庭に面した縁側からは、夏の刺すような陽射しが入り込んできている。でもその陽射しは、一旦障子に遮られて、部屋の中を明るく照らす柔らかな光に変わっていた。
エアコンなどの空調機は見当たらないのに、屋敷の中は、不思議とどこも涼しくて過ごしやすい。
俺は、わくわくしながら銀ちゃんの部屋に入った。綺麗な和室をきょろきょろと落ち着きなく見回していたら、いきなり銀ちゃんの力強い腕に捕らえられる。きつく抱きしめられて、息苦しくなって顔を上げた。
銀ちゃんの顔がゆっくりと近付き、俺の顔中にキスを落として唇を塞ぐ。俺の口内を隈なく舐め回すと、唇を横にずらしていき、耳朶を食んで耳の中に舌を挿し入れた。
「あっ、ああ…んぅ、や…っ」
俺は恥ずかしいくらい高い声を上げて、膝から崩れ落ちてしまう。
銀ちゃんが慌てて俺を抱き留める。頰を当てた銀ちゃんの胸から、どきどきと激しい心音が聞こえてきた。
「ふっ、凛は耳が弱いのな…。やばい…」
「だ、って…、なんかぞくっとして…おかしくな…る、はぁ…」
俺がぐったりと銀ちゃんに寄りかかっていると、「失礼しまーす」と明るい声がして襖がすっと開いた。
「あ、お邪魔でした?あれ…なんか凛がやばくなってない?すっげー可愛いんですけど」
「うるさい。要件を言え」
「おお、こわっ。お父上が凛に会いたいそうです。応接間に来るようにと仰られてます。凛、その顔なんとかしなよっ」
浅葱が軽くウィンクをして、親指を立てながら襖を閉めた。遠ざかって行く足音に、銀ちゃんが舌打ちをする。
「ちっ、あいつ…間の悪い。凛、無理に親父に会う事はないんだぞ。また日を改めても…」
「…会うよ。俺も会いたい。会って、ちゃんと挨拶したい。だって、家族になるかもだし…」
俺は照れ笑いを浮かべて銀ちゃんを見上げた。
「凛…」
「な、なに…」
銀ちゃんは、俺の赤くなった頰を親指で撫でて、唇にちゅっと口付ける。そして「好きだよ」と甘く囁いた。
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