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第40話 対面
銀ちゃんのお父さん…縹(はなだ)さんの笑い声を聞いて、俺の緊張が少しほぐれてきた。
「そんな所に立ってないで座りなさい」
「はい…失礼します」
縹さんに勧められて、縹さんの斜め前に銀ちゃん、その隣に俺が座る。浅葱はテーブルにお茶と軽食を並べると、 「お昼まだでしょ?食べて」と言って、テーブルを挟んだ俺の向かい側に座った。
「あの、お聞きしたいんですけど、俺の事、嫌じゃないですか?花嫁と言っても、俺は男だし、人間です…。反対はしないのですか?」
縹さんは、大きく目を見開いて首を傾げる。
「君の事は9年前から散々、銀に聞かされている。だから、ずっと前から家族のような気持ちでいたよ。君も知っての通り、銀の翼は銀色だろう?その事で、昔は周りから色々と言われてね…。銀は嫌気がさして何事にもやる気を無くしていたんだよ。それが、ある時に『守りたい子がいるから強い天狗になる』と言って、嫌がってた勉強や修行に励み出した。守りたい子って君だろう?銀にやる気を出させてくれて感謝している」
湯呑みを手に取りお茶を口に含むと、にこりと笑って話し続ける。
「それに、男だとか人間だとかは関係ない。銀が契約する程好きになった相手だ。周りがその気持ちに、とやかく言うべきじゃない。私は歓迎する。君は、安心して銀の元へ来なさい。そもそも、今回、銀が帰って来たのも、君を嫁に迎える事について、いろんな所に説明と説得に回っていたんだ。落ち着いたら君を連れて来ると言ってたのに、こんなに早く会う事が出来て、私は嬉しい」
「あ……」
ーー俺は、男だし花嫁にはなれない、契約も無効だと思ってた。でも、銀ちゃんはやっぱり優しくて、一緒にいるのがとても心地いい。そのうちに、俺が女だったら契約通り花嫁になれたのに…、そう思うようになった。
でも俺は男で、契約を解いてもらうしかない。銀ちゃんが早く契約を解こうと言う度に、俺の胸が苦しくなった。だってそれは、契約を解きたくないからだ。契約を成立させて欲しいからだ。俺は銀ちゃんが、やっぱり誰よりも好きだからだ。
でも、それを言葉にしてしまうと、銀ちゃんが俺から離れて行ってしまいそうで言えなかった。
この郷に来て、思いがけず銀ちゃんの本心を聞けた。そして、俺の気持ちも伝える事が出来た。そのうえ、銀ちゃんのお父さんに会う事も出来て…。ここに連れて来てくれた鉄さんには、本当に感謝をしている…。
俺は、自分の今までの心の葛藤を思い出した。
銀ちゃんと想いが通じ合ったけど、周りに反対されるのだろうと覚悟をしていた。
それなのに、思いもかけなかった縹さんの温かい言葉に、思わず涙がぽろりと溢れてしまった。
「おや、何か失礼な事を言ってしまったかな…、すまないね」
「違います」と言う言葉を声に出せなくて、俺は小さく首を横に振る。
銀ちゃんが、肩を震わす俺の頭を自分の胸に抱え込んだ。「凛…」と呼ぶ優しい声に、俺の背中を撫でる大きな手に、俺は、胸の奥から湧き上がってくる幸せを噛み締めていた。
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