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第52話 大切なもの
「凛、起きて」
軽く肩を揺すられて目が覚める。ぼんやりと見つめる先で、心隠さんが優しい笑みを浮かべていた。
「お粥、少しだけでも食べようか。力をつけないと」
「はい…」
心隠さんは俺を起こして背中を支え、お粥の入ったお椀を渡してきた。
「どうする?俺が食べさせようか?」
「えっ?じ、自分で食べれますっ。いただきます…」
俺はスプーンを手に取り、お粥をすくって口に入れる。優しい温度と味が身体中に沁み渡り、とても気持ちが落ち着いた。
半分くらい食べた所でお腹がいっぱいになって、お椀をお盆の上に戻した。
「ご馳走様でした。美味しかった…」
「そう、よかった。少しずつ食べる量を増やしていこう。あ、そうだ、これ返しておくよ」
心隠さんが、俺の手に銀色の羽根を乗せた。その羽根を見た瞬間、俺の胸がきゅうと締めつけられて苦しくなった。俺はそっと羽根を握りしめ、その手を胸に当てて目を閉じる。
「それ、とっても大事な物みたいだね。凛を見つけた時からずっと握っていたよ。身体を拭く時に取ろうとしたけど、強く握りしめていたから大変だった。でも何とか手を開いて取り出したんだけど、凛の手に付いてた血で汚れていたから、洗っておいた。勝手な事して悪かったね」
「いえ…、綺麗にしてくれてありがとう…ございます。これは、俺にとってすごく大切な物なんです。よかった…、ちゃんと持ってたっ…」
俺の声が震えて涙が溢れ出した。
ーーそうだ。俺の手には銀ちゃんの血が付いてた。銀ちゃん、怪我は大丈夫だった?鉄さんは、ちゃんと約束を守ってくれた?俺の事で…今、悲しんでる…?俺は…無事だよ。銀ちゃん…会いたいよ…。
次から次に涙が溢れて止まらなくなり、俺は肩を震わせて泣き続けた。
俺が泣いている間、心隠さんは黙って傍にいてくれた。思う存分泣くとようやく涙が収まってきて、俺は小さくしゃくり上げる。心隠さんがそっと俺の背中を撫でた。
「何かとても辛い事があったんだね。眠ってる間にも、静かに涙を流していた。どうしても辛くなったら、俺を頼ってくれていいよ」
心隠さんの優しい言葉に頷くと、俺は銀色の羽根を見つめて、またはらりと涙を落とした。
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