53 / 287

第53話 回復

1週間もすると、起き上がってゆっくりと歩けるようになった。ご飯も普通に食べて、体力も戻ってきた。 傷も塞がってきて、何日か振りにお風呂に入った時に、鏡に映った裸を見て驚いた。身体の至る所に青痣が出来て、背中と腕に大きな切り傷の痕がある。切り傷は、軟膏のおかげかずいぶんと治っていて、今はピンク色に少し盛り上がっているだけになっていた。 ーーふふ、これ…銀ちゃんが見たら、俺の全身を舐めて治すとか言いそう…。 ふいに銀ちゃんを思い出して、胸が詰まる。 銀ちゃんに会いたい。でも、鉄さんに見つかって、また銀ちゃんを傷付けられたらと思うと怖い。 だからと言って、いつまでもここに居させてもらうわけにはいかない。 身体も動くようになったし、俺はとりあえず家に戻ろうと思った。 俺の着ていたTシャツは、破れて血が付いていたから捨ててもらった。なので、今は心隠さんの白シャツを借りているのだけど、彼もまた背が高いから、俺には大き過ぎて、袖を何重にも折り曲げないといけなかった。 ある朝、俺は朝食を食べ終わり、縁側に腰掛けてぼんやりと外を眺めていた。この家は、山の中にぽつんと一軒だけあるようで、周りは木に囲まれている。 心隠さんに、ここの場所を聞いても詳しくは教えてもらえなかったけど、「君が落ちた崖からは、少し離れてるよ」とだけ言っていた。 ふと影が差して横を向くと、心隠さんが傍に来ていて俺の隣に座った。 「今日も陽射しが強いね。何か考え事?」 いつもの綺麗な笑みを浮かべて聞いてくる。 「心隠さん、俺、そろそろ家に帰ろうと思ってます。だいぶん動けるようになったし…。本当にありがとうございました。あの…、何かお礼をしたいんですけど…」 俺は窺うように、心隠さんを見上げる。 「そっか…、寂しいけど凛の生活があるからね。お礼ね…、してくれると言うのなら、欲しいものがあるかな」 心隠さんの首を傾げる姿が可愛く見えて、思わず顔が綻んだ。 「ふふ、何ですか?」

ともだちにシェアしよう!