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第55話 銀side 後悔
凛が谷底に落ちた。
俺は、空を飛ぶ翼も、くろを跳ね飛ばす力もある筈なのに、助ける事が出来なかった。
俺はこの日の事を、一生後悔する。
この状況を作ったくろが憎いが、やっと凛が俺のものになるという事に浮かれて、油断した自分が許せない。
俺は、凛が暗闇の中に吸い込まれていくのを、ただ呆然と眺めるしかなかった。
身体の芯から冷えて凍え、絶望した。
谷底を見つめたまま動かない俺の上から、くろが降りる。俺はまだ身体に残る薬と、凛を助けれなかったショックで、ぴくりとも動けなかった。
「あーあ、落ちちゃったね。もっと泣き喚くかと思ってたけど、凛くん、意外と度胸があったな〜。さてと、僕の気持ちもすっきりしたし、しろやおじさんにお咎めを食らう前に、少しの間、隠れてるよ。あと1時間くらいで薬が切れると思うから、凛くんを捜しに行っておいでよ。ふふっ、どんな姿になってるんだろうね…」
くすくすと笑いながら話すくろの言葉が、俺の身体の上をただ通り過ぎていく。
「ふ〜ん、なんか反応がないと面白くないんだけど。ま、いいか。織部、行くよ」
「はい」
俺の顔の傍に短刀を放り投げて、くろと織部が遠ざかって行く足音が聞こえる。
ーー凛…、おまえを失って、俺はどうすればいい?おまえがいるから、俺は今まで頑張ってこれたんだ。おまえがいなくなった世界で、俺はどうしたらいい…。
微動だにせず、ただ谷底をぼんやりと見つめてるだけの俺の耳に、突然鋭い鳴き声が響いた。
「…っ」
はっと意識を戻すと、目の前に烏がいて俺の腕を突ついている。背後から、浅葱の絞り出すような声が聞こえてきた。
「銀様っ、しっかりして下さい…っ。抜け殻になってる場合じゃないです。凛はまだ…死んだと決まった訳じゃない…。早く、助けに行きましょう。今、使いの烏に郷の者を呼びに行かせてます。すぐに…助けが来ます。手助けしてもらって崖の下へ…っ」
「カァッ」
目の前の烏が、一声鳴いて俺の背後に飛び立った。烏を追ってゆっくり振り向くと、建物の屋根を超えて5人の男がこちらに飛んで来るのが見えた。
2人が浅葱の所へ、後の3人が俺の傍に降り立つ。
俺は説明する間も惜しんで、今すぐに崖の下へ連れて行くよう彼らに命じた。
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