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第56話 銀side 凛の行方

俺と浅葱は、それぞれ両脇を支えられて谷底へ降りた。途中、崖壁から生えている木に凛の服の切れ端が引っ掛かっているのを見つけた。折れてる枝もあり、ここに身体をぶつけたのだろう…。凛の身体が傷付いてるかもしれない…。 谷底に、凛の姿はなかった。 最悪の姿を見なくて済んだ事に、長く息を吐く。だが、松明で照らされた地面には、所々に血が落ちているのが見える。凛の血を舐めた事がある俺にはわかる。これは、凛の血の匂いだ…。 自分で歩いてどこかに行ったのか、或いは誰かに連れ去られたのか。 「くろが連れて行ったのか…?」 俺の呟きに、傍にいた男が答えた。 「鉄様なら、私達がこの崖の上に来る途中に、大きな荷物を抱えて、織部さんと2人で郷の外へ飛んで行くのを見ました」 「そうか…」 くろじゃなかった事に、少し安堵する。 「でも銀様…、ここに微かに鬼の気配が残ってます…。もしかしたら鬼に連れて行かれたのかも…」 浅葱の言葉に、俺の心臓が煩く鳴り始める。 鬼か…。だとしたら、まずいな。怪我をして血の匂いをまとう凛を、鬼はどうする?無事で済むだろうか…。早く見つけないといけない。 「郷にいる、全ての者に伝えろ。動ける者は俺の家に集まってくれ。早急に人を捜すのを手伝って欲しい。俺の、大事な花嫁を…」

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