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第58話 銀side 違和感

あれから4人で話していたのだが、やはり凛の様子がおかしい。凛が買い物に行くと出て行ったので、俺と浅葱、清忠で俺の部屋に集まった。 「凛の俺に対する態度がよそよそしい…。それに、天狗の郷に来た事や崖から落ちた事も忘れてるみたいだな」 「俺が思うに、俺や一ノ瀬さん、浅葱の存在は認識してるみたいだけど、俺達が妖である事や天狗の郷の事、一ノ瀬さんと婚姻の契約を交わしてる事を忘れてしまってる気がする…」 「それってやっぱり崖から落ちたショックかなぁ」 清忠の言葉に浅葱が答え、俺は首を傾げる。 「いや、違うと思う…。そんな特定の事だけを忘れてしまうものだろうか?凛は、心隠(しおん)とかいう奴に、倒れてるところを助けてもらったと言っていた。間違いなくそいつは妖だろう。凛の傷の治りの早さから、きっと妖の薬を用いている。そいつが凛に何かしたのかもしれない。心隠という奴に聞くのが早いな」 清忠と浅葱が揃って頷く。 「でも、凛に聞いても『住んでる場所がわからない』と言ってたし…。そのうち、凛に会いに来るでしょうか?」 「来る…。奴は凛に何かしらの術をかけたんだ。凛に興味を持ってると思う。だから、また必ず会いに来る」 「じゃあ、しばらくは様子を見るんですか?」 聞いてくる清忠に、俺は渋い顔を向けた。 「悠長な事はしていられない。凛の誕生日まであと2ヶ月を切ったんだ。時間がない」 「誕生日が来たら何かまずいんですか?」 「清忠…、俺が後で説明するよ」 とぼけた表情の清忠の肩に、浅葱が手を置いて苦笑いをした。 凛の元気な姿を見て、俺は心底嬉しかった。安心した。だが、俺との婚姻の契約を忘れてる様子の他人行儀な凛に、契約を成立させる為に無理に身体を繋げる事など到底出来ない。 何とかして凛の記憶を戻さないと、と俺は焦っていた。

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