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第59話 銀side 愛しい凛
凛が買って来てくれた材料で夕飯を作り、皆んなで食べた。
凛と清忠、浅葱の3人で楽しそうに喋りながら夕飯の準備をしてる様子は、今までの凛と何ら変わっていない。でも、凛を見つめる俺と目が合うと、気まずそうに視線を逸らしてしまう。いつもなら、恥ずかしそうにしながらも、愛らしく笑ってくれていたのに…。その笑顔に、俺はいつも愛しさで胸がいっぱいになっていたんだ。
今は、焦りと苛立ちで胸が苦しい。
夕飯を食べて後片付けが終わると、清忠と浅葱は帰って行った。
先にお風呂に入れと言う凛に、俺は後でいいからおまえが入れと促すと、申し訳なさそうにお礼を言って風呂場へ向かう。その他人行儀な態度がとても寂しかった。
凛は風呂場から出ると、俺に挨拶をしてすぐに2階の部屋へ上がってしまった。
凛がすぐ傍にいるのに触れる事が出来ないのが、この上なく辛い。
俺は全く眠れなくて、夜が深くなってからそっと凛の部屋へ入った。
熟睡する凛の顔をじっと見つめる。少し、痩せたような気がする。崖から落ちた時は、どれ程怖かっただろう。怪我も、どんなに痛かっただろうか。
その辛い記憶も思い出す事になるが、俺との事を思い出して欲しい。
天狗も記憶を操作する力を持っている。だが頭の中に干渉するその力は危険で、使う事は躊躇われる。
「凛…すまない」
俺は小さく呟いて、そっと掌を凛の額に乗せる。掌に意識を集中させて凛の記憶を呼び戻そうとしたが、やはり、術をかけた本人でないと駄目みたいだ。
凛の額に乗せていた手を頰に滑らせて、優しく撫でる。親指で、凛の赤い唇に軽く触れた。
凛…、俺の花嫁になると言ったじゃないか。早く俺のものになりたいと…。もう待てない。頼むから、いつもみたいに俺を呼んでくれ…。
俺は祈るような気持ちで想いを込めて、赤い唇にそっと口付けた。
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