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第60話 銀side もどかしい思い
気ばかりが焦り、何も進展しないまま日数だけが過ぎた。もうすぐ夏休みが終わる。2学期に入ると、ひと月程で凛の誕生日が来てしまう。
助けてくれたという奴の事を聞いたが、『心隠(しおん)』と言う名前と『優しくて綺麗な男の人』という事しかわからなかった。
心隠…。どこかで似たような名前を聞いた事がある気がするのだが、思い出せない。
凛と再会して1週間が経った頃、白いシャツを着た綺麗な男が、凛を訪ねて来た。玄関に立つその男を見て、凛は嬉しそうに駆け寄る。
「心隠さんっ、こんにちは。来てくれたんですか?」
「ふふ、こんにちは、凛。元気にしてた?」
「はいっ」
心隠という名の凛を助けたらしい男は、凛の隣に立つ俺を見て目を細めた。
「あなたは…、凛が話してた同居人の方ですか?」
「違う。一緒に住んでるが同居人ではない。それに、白々しい挨拶はいい。俺の正体は知ってるのだろう?俺も、まさか鬼が人間を助けるとは思わなかったよ」
「ふふっ、やっぱりわかりましたか。あなたが、珍しい色の翼を持つ天狗ですね」
「そうだ…。凛を助けてくれた事に対しては礼を言う。だが、その後の行為が気に入らない。今すぐに、凛にかけた術を解け」
俺と男とのやり取りを目を丸くして見ていた凛が、きょろきょろと交互に俺達を見て困っている。その様子が可愛くて、思わず笑って頭を撫でた。
「凛、大丈夫だから大人しく見てろ」
「え?だって…。天狗?鬼って?一体何のこと⁉︎」
「おまえに何もしないし、させないから…な?」
凛の顔を覗き込んで微笑むと、凛は唇をきゅっと結んで小さく頷いた。そんな凛が本当に愛しくて、今すぐに腕に閉じ込めてしまいたいのを、ぐっと我慢する。
俺はもう一度、心隠という名の鬼を見た。
「おい、術を解くには術をかけた本人が解くしかない事は知ってるだろう。頼む、凛を元に戻してくれ」
「え〜、どうしよう。凛に俺のことを好きになってもらおうと、あなたを想う気持ちを封じ込めたんだけど。う〜ん…、じゃあ、術を解いてもいいけど、あなたが代わりの物をくれますか?」
「凛を元に戻してくれるなら。何を渡せばいい?」
「凛が、助けた時からずっと銀色の羽根を大事に持っていて、綺麗だなぁと思ってたんです。術を解く代わりに、あなたの銀色の翼を下さい」
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