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第64話 恩返しと仕返し

「凛…?今…俺を…っ」 俺はゆっくりと目を開けた。銀ちゃんを見上げて、俺だけの愛しい呼び名を口にする。 「銀、ちゃん…、銀ちゃん…銀ちゃあん…っ、俺、ごめん…っ、ぎ、銀ちゃんの…ぐすっ、花嫁だってこと、忘れてた…っ」 銀ちゃんを映す瞳から、涙をぽろぽろと零してしゃくり上げる。 「俺…っ、絶対に…ふぅ、銀ちゃんを好きっ…な気持ち…忘れないって、うっ…気を失う前に誓ったのに…っ、わ、忘れてた…。俺、感じ悪かったよね…。ぐすっ、俺のことっ、き、嫌い…になった…?」 銀ちゃんの服を掴んで、次から次に涙を溢れさす俺の頰に、銀ちゃんが唇を寄せた。 「馬鹿を言うな…。俺がおまえを嫌いになるわけないだろ?凛は今、自ら妖の術を解いたんだ。普通では考えられない事だ。妖に術をかけられたら、人間にはどうしようも出来ない。それをおまえは…。ふっ、それほど強く俺を想ってくれてるんだな。凛、ちゃんとわかってるな?おまえは俺の花嫁だ」 「うんっ、わかってる…っ。ごめんね…。ねえ、怪我はどうしたの?大丈夫だった⁉︎」 「あんな傷は、2日も経てば治る」 「ほんとに?…よかっ…た」 「まさか、自分で術を解いてしまうなんてね…。愛の力ってすごいね。こうなったら仕方がない、銀色の翼は諦めます」 大きな溜め息を吐いて心隠さんが苦笑いをした。 銀ちゃんが翼をしまい、俺を胸に抱いたまま心隠さんに悪態を吐く。 「当たり前だ。凛に術をかけた時点でおまえは許せない。だが、凛を助けてくれた事に免じて、今回は見逃してやる」 「えっ…銀ちゃん、そんな風に言わないでよ…。だって、心隠さんがいなかったら、俺は死んでたんだよ?」 俺は、銀ちゃんの胸に埋めていた顔を上げて、軽く睨んだ。銀ちゃんがバツが悪そうに目を逸らす。それでも、俺の背中に回した腕の力は緩めなかった。 「おい、おまえ、なぜ凛を助けたんだ?それに、なぜ術をかけた?」 銀ちゃんが、警戒心剥き出しで心隠さんに尋ねた。 「まあ、落ちて来た時は、咄嗟に受け止めてしまったんだけどね。凛がとても美味しそうな血の匂いをさせていたから、とりあえず連れ帰った。服もぼろぼろで、怪我をして血で汚れていたから、身体を拭こうとしたんだ。そうしたら、手に銀色の羽根を握りしめているのに気付いた。どんなに取ろうとしても強く握って取れないし、この羽根は、余程大事なものなんだろうと思った。そのうちに天狗が大騒ぎをして捜しに来ただろ?天狗にとってもこの子は大事。これはきっと、この銀色の羽根を持つあなたと深い関わりがあるに違いないと確信した。だから助けた」 「俺と関わりがあるから助けたって、どういう事だ?」 心隠さんが、ちらりと銀ちゃんを見る。 「7年程前に、山で迷った小さな鬼の子を助けなかったか?その子は、俺の妹だ。凛を助けたのは、その時の恩返しのつもりだ。」 「7年前…?ああ、確かそんな事があったな…。出会った頃の凛に似ていて、放っておけなかったんだ。天狗の領域に迷い込んでいたから、鬼が住むという山の近くまで送ってやった。確か…流隠(りおん)とか言ってたような…」 古い記憶を呼び起こすように、銀ちゃんが遠くを見る。俺が見てる事に気付くと、俺の頭を撫でて笑った。 「凛を思い出して、気まぐれで助けたんだ。まさか、そのおかげで凛が助かるなんてな。ふっ、あの時の俺を褒めてやりたい」

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