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第65話 恩返しと仕返し
「だけどね…」と心隠さんが話を続ける。
「その時、妹があなたに一目惚れをして告白をしたそうだね。それをあなたは、『俺にはもう決まった花嫁がいる。その子以外はいらない』と無下に断った。妹はひどく落ち込んでいたよ。凛に術をかけたのは、せめてもの仕返し。すぐに解くつもりではいたけど。ふふ、でもまさか、自分で解いてしまうとは思わなかった」
そう言うと、心隠さんは玄関の引き戸を開けた。
「じゃあ、邪魔者は帰るよ。久しぶりの逢瀬を楽しんで」
「あ、待ってっ。心隠さん、いろいろお世話になってありがとう。結局、お礼をしてないんだけど…」
「凛は律儀だね。俺は、やっぱり凛が気に入ってる。礼なら実はもうもらってるんだ。凛が眠ってた間に、凛の血を少しね…。とっても甘くて美味しかったよ」
「なんだとっ⁉︎やはりおまえは殺す‼︎」
叫ぶと同時に、銀ちゃんの身体から風が吹き出て、周りの空気がびりびりと震え出した。そして銀ちゃんが右手を心隠さんに向けた途端、心隠さんの身体が玄関の外へと弾き飛ばされた。
「うわっ」
「心隠さんっ!」
心隠さんは、咄嗟に胸の前で腕を交差させ、衝撃を受け止めて堪えた。片膝をついた姿勢から立ち上がり、膝の汚れを叩いて落とす。
「おお怖い。殺されるのは嫌だから今は帰るけど、また来るよ、凛」
「うん、待ってるね」
「二度と来るなっっ!」
「銀ちゃん‼︎」
心隠さんは笑って俺に手を振ると、身体の向きを変えて去って行った。
心隠さんが家の敷地から出たのを確認した銀ちゃんは、俺を胸に抱えたまま、右手を振って玄関の引き戸をビシリと閉める。
「もうっ…銀ちゃん、心隠さんは俺の命の恩人なんだよ?あんな事したら駄目じゃんっ」
「あいつ、おまえの血を飲んだんだぞ?許せるわけないだろっ。おまえは俺だけのものだっ‼︎」
そう言うや否や、呆れて物が言えない俺の後頭部を引き寄せて唇にかぶり付いた。
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