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第74話 嵐の前の

俺の今までとこれからの人生の中で、一番と言っていいくらいの激動の夏休みから1ヶ月半が過ぎた。 この1ヶ月半の間に、体育祭と文化祭、俺の誕生日があった。 たいして運動神経の良くない俺は、体育祭もこれと言って活躍する事もなく、文化祭も1年生は手作りのゲームを作って、当日はゲームの説明をしたり監視したりするだけで、これもまた活躍する事はない。でもそれなりに盛り上がって楽しかった。 銀ちゃんが、どちらも見に来ると言ってたけど、入学式での騒ぎを思い出して必死で断った。すごく納得いかない様子で、「あ〜この人絶対来るな…」と諦めかけていたら、銀ちゃんのお父さんに「会社が忙しいからしばらく手伝え」と言われたらしく、渋々諦めてくれた。 俺もほんとは見に来て欲しいけど、銀ちゃんが注目を浴びるのは面白くない。 俺の誕生日は、契約が成ったお祝いもかねて、天狗の郷の銀ちゃんの家で祝ってもらった。 この年になって、ちゃんとした誕生日パーティなんて照れるけど、皆んなに祝ってもらえるのは素直に嬉しい。 相変わらず銀ちゃんのお父さんと浅葱は、ずけずけと恥ずかしい事まで聞いてくる。それをやんわりと嗜めるのは、色白で大きな二重の目がとても可愛らしい銀ちゃんのお母さんだった。 どう見ても、銀ちゃんの姉にしか見えないお母さんの紫(ゆかり)さんは、俺を一目で気に入ってくれた。 「まあ可愛い!私、こんな可愛い子供が欲しかったのよっ」 と言って、いきなり俺をぎゅっと抱きしめ頬ずりをした。 助けを求めて銀ちゃんを見ると、恐ろしい顔をして、俺を紫さんから引き剥がす。 「母さん、無闇に凛に触らないでくれ。ああ、髪が乱れてしまったな」 銀ちゃんが俺の髪の毛を優しく撫で付ける。 「まあ、銀!だって実の息子がそんな怖い顔をしてるんだもの。ちょっとくらい、可愛い凛ちゃんを貸してくれてもいいじゃない」 「駄目だ!凛は俺だけが可愛がってればいいんだっ。なぁ、凛?」 銀ちゃんは、腕の中に閉じ込めていた俺を見下ろして、怖かった顔を一瞬でふやけさせた。そして、顔を上げた俺の唇に強く唇を押し付けてきた。

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