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第75話 嵐の前の

独占欲丸出しで皆んなの前でキスをした銀ちゃんを、紫さんは呆れて、縹さんと浅葱はにやけて見ていた。 ーーあの時は恥ずかしかったな…。俺の事を執着してくれるのは嬉しいけど、時と場所を考えて欲しいよ…。 誕生日の事を思い出すと、俺は溜め息がでてしまう。でも、それと同時に顔もにやけてしまうんだ。銀ちゃんの、俺を好き過ぎる態度が困る時もあるけど、愛されてる事を実感出来るのは、とても幸せだった。 夏休みの終わり頃には、約束通り、銀ちゃんは俺の両親に電話で挨拶してくれた。 母さんは、「一ノ瀬さんみたいなイケメンが彼氏だなんて!よかったわっ」と喜んでいた。銀ちゃんの隣で、どきどきしながら聞いていた俺は、拍子抜けしてしまった。 そう言えば、昔、母さんは俺を女の子として育てようとしてたし、まさか未だに俺を女の子にしようとか思ってないよね……と心配になった。 父さんは、すごく驚いて長い沈黙の後に、「凛が君を好きで幸せならいい…。一ノ瀬くん、凛を泣かせないでくれよ」と渋々ながら許してくれた。 俺は、理解のある両親の下に生まれて、すごく幸せ者だと思う。 俺の誕生日を天狗の郷で祝う話が出た時に、前に、銀ちゃんの事をよく思ってない人達に何かされるかもしれないから連れて行きたくない、と言ってた事を思い出した。 だから「俺を連れて行っていいの?」と聞くと、銀ちゃんの事を一番煙たがっていた鉄さんの父親が、今は大人しくしているから大丈夫だ、と教えてくれた。 父親に責任はないけれど、夏に鉄さんが、俺と特に銀ちゃんにした事で、郷の偉い人達から鉄さんの父親を責める声が上がったからだそうだ。 そして、鉄さんの行方は未だわからないと、銀ちゃんが暗い顔をして言っていた。

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