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第76話 嵐の前の
10月も半ばを過ぎた頃、1年生は信州に2泊3日の校外学習に行く事になった。
学校行事とはいえ、清忠やクラスの友達との初めての泊まりにわくわくしながら準備をしてると、銀ちゃんが、俺の部屋に様子を見に来た。
「凛、準備はどうだ?何か手伝う事はないか?」
「うん、もうほとんど出来た。ありが…どうしたの?」
銀ちゃんが、少し暗い顔をして俺を見ている。
そっと俺の頰を撫でて、小さく呟いた。
「いや…仕方のない事だが、おまえと離れるのが寂しいと思ってな…」
「2回泊まるだけだしすぐ帰って来るよ…?」
「そうだな…。凛、あれは持って行くのか?」
「もちろんっ。これはもう、俺の一部だからっ」
あれと言われて、俺は首から下げたネックレスの先を摘んで見せた。
銀ちゃんが、その手を掴んで指にキスをする。
ネックレスの先には、この前の誕生日に銀ちゃんから貰った指輪が付いていた。銀ちゃんの左の薬指にも、お揃いの指輪がはめられている。
俺は、休みの日だけ指にはめて、それ以外の時は、ネックレスに通して首から下げる事にしていた。指輪は校則で禁止されているから、普段は首からかけておけばいいと、銀ちゃんがそうしてくれたんだ。
「ふふ、そうだな…」
そう言いながら、俺の頭を抱き寄せる銀ちゃんは、やっぱり元気がない。俺が寂しくさせてるのかと思うと胸がきゅんと鳴って、逞しい背中に腕を回して強くしがみ付いた。
銀ちゃんの胸に顔を付けて、大好きな匂いを嗅いでると、なんだか俺も寂しくなってきた。
俺は銀ちゃんを見上げて名前を呼ぶ。
「銀ちゃん…」
「…なんだ?」
銀ちゃんが窺うように俺の顔を覗き込む。俺は背伸びをして、銀ちゃんの唇にちゅっとキスをした。
「俺も寂しいよ…。ねぇ、俺に銀ちゃんの匂いをいっぱい付けて?俺、銀ちゃんといっぱいしたい…」
「……っ」
一瞬、動きを止めた銀ちゃんは、すぐに目を細めて甘く笑った。そして、俺の肩に顔を埋めると大きく息を吸い込んだ。
「明日、辛くなるかもしれないぞ。いいのか?」
「いい…。銀ちゃんに触られない方が辛いから、いっぱい触って欲しい…」
「わかった。2日間…いや、一生消えないくらいの匂いを付けてやる」
「ん…」
銀ちゃんは俺を抱き上げると、ベットに近付きそっと降ろして抱きしめた。
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