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第80話 校外学習
バスの中で目一杯寝たおかげか、目的地に着いた頃には、身体の怠さがずいぶんと楽になっていた。
それでも腰や足に筋肉痛のような痛みが残っていて、どうしてものろのろとした歩き方になってしまう。
心配して声をかけてくるクラスメイトには、「階段から落ちたんだ」と笑って誤魔化した。
夕飯まで自由時間だと聞いて、宿泊するホテルの周りを散策したり、部屋に集まってゲームをしたりと、皆んなそれぞれに散らばって行く。
俺は自分が泊まる部屋に入るなり、座布団を枕にしてごろんと寝そべった。部屋は10畳の和室で、俺と清忠、青木、倉橋と言う同じクラスの4人が同部屋だ。
「俺ら隣の部屋に行くんやけど、椹木と真葛はどうする?」
サッカー部で背が高く、爽やかな見た目の青木が聞いてきた。
「あー…、ごめん。俺はゆっくり休んでるよ。清は行って来なよ」
「ん〜、俺も休んでるわ、悪いな」
「わかった、じゃあな」
青木と倉橋が部屋から出て行くと、清忠が窓の側の椅子に座って外を眺めた。
「清、俺の事は気にしないで行ってくれて良かったのに…」
「いいんだよ、俺もゆっくりしたかったし。それにまあ…、一ノ瀬さんから『絶対に凛の傍を離れずに守れ』と命令……頼まれてるから」
頰をぴくぴくと震わせて、清忠が苦笑いをする。
「えっ、銀ちゃんそんなこと清に言ったの?ごめんっ。ほんと俺の事は放っておいていいからっ」
「だからいいんだって!一ノ瀬さんに言われなくても、俺が凛ちゃんの傍にいたいんだよ、なっ。だから、凛ちゃんは必ず俺と行動を共にすること。1人でふらふらしたら駄目だよ」
「ん…わかった。清、ありがと」
俺が笑って清忠にお礼を言うと、清忠がこの話は終わりとばかりに顔を外に向けた。
「それより見ろよ。ここから見える景色、なかなか良いな。なあ、あそこの山には蛇の妖がいるって聞くぜ。凛ちゃんは気を付けような。今の凛ちゃんには、一ノ瀬さんの匂いが濃く付いてるから、興味を持って近付いて来るかもしれない」
「……へび…?」
清忠の話を聞いて、背筋に冷たいものがぞくりと走る。
ーー俺は蛇が苦手だ。出来れば会うのは遠慮したい。
俺は身体を起こして、秋に近付こうとしている山を見る。俺の胸に微かな不安がちらりとよぎった。
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