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第88話 絶体絶命

パキッと木の枝が折れる音が近くから聞こえて、俺は顔を上げた。 目を見開いて、のろのろと木の幹を背に立ち上がる。俺の2、3メートル手前に、鉄さんと真白さんが立っていた。 「椹木くん、見ーつけた。駄目だよ、かくれんぼならもっと上手に隠れないと」 2人の傘に当たる雨粒の音が、ぱたぱたと煩い。俺の顔に流れ落ちて来る雫を、濡れたパーカーの袖で拭った。 先ほどまで、寒さと恐怖でかたかたと震えていた歯の根が静まる。まるで、雨が俺の弱い心を洗い流してくれたかのように、俺は不思議と落ち着いていた。 「凛くん、ほんとにしぶとい。早くやられちゃってよ」 忌々しげに俺を睨む鉄さんの目を、まっすぐ見つめ返す。 「鉄さん、自分で言うのもなんですけど、俺は今、銀ちゃんにすごく愛されてます。俺を殺すと銀ちゃんはあなたを絶対に許さない。二度と郷にも戻れないかもしれないですよ。それでも、いいんですか?」 「別に郷に戻れなくてもいい。あんなクソ親父の所になんて、戻りたくもないし。まあ、しろも怒るだろうけど、僕を殺しはしない。不本意だけど、僕の事は兄弟みたいに大事に思ってくれてるだろうから。今は凛くんに夢中みたいだけど、いなくなったらそのうち忘れるよ?あはっ、凛くんは、自分が死んだ後の事なんて気にしなくていいのに」 口の端を上げて、俺を見下したように吐く鉄さんの言葉に、俺はどこか納得をした。 ーー確かに…。銀ちゃんは鉄さんの事を怒りながらも、憎みきれないでいるみたいだ。鉄さんの事を話す時、すごく辛そうな顔をするから…。切っても切れない大事な絆があるんだろうな。鉄さんの言う通り、俺が殺されても、初めは怒っても時間が経てば許すのかもしれない…。 はあっ〜、と大きな溜め息を吐き出す。 何とか言いくるめないものかと思ったけど、無理なようだ。 「この前はムカついて、しろを傷付けちゃったけど、今度はしろの心の傷を僕が慰めてあげるよ。だって、凛くんは、この蛇の真白に殺されちゃうからね。だから心配してもらわなくても、僕はしろに怒られたりしないよ?」 「え〜?ちょっと待って。それって僕がヤバイよね?彼に殺されちゃうよね?」 「…真白、ほとぼりが冷めるまで、どこかに隠れてればいい」 「種族間の争いにまで発展しても知らないよ?まあ、鉄の頼みだからやるけど…」 真白さんが肩をすくめて苦笑いをする。そしてゆっくりと俺に近付いて来た。

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