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第89話 絶体絶命

俺の身体が、再びかたかたと小さく震え出す。きっとこれは、髪の毛も服も靴も全部濡れたから、寒くて震えてるんだ。 そう自分に言い聞かせて心を奮い立たせようとするけど、やっぱり怖い。それに、どうやら今回は本当にピンチみたいだ…。 ふっ、と俺に降り注ぐ雨が止む。顔を上げると、真白さんが持つ傘で雨が遮られていた。 「せっかく足を手当てしてあげたのにゴメンね?僕さ、鉄に借りがあるから返さないと駄目なんだ。せめて、苦しむ時間が短くて済むようにしてあげる……」 彼の言葉が耳に入って来るけど、そのまま通り過ぎて行く。 ーーばあちゃんが教えてくれたあの言葉…。ばあちゃん、どうか俺を助けて。 俺は、細く長い息を吐く。 目を伏せ、記憶を頼りに指を組み口を開いた。 俺の肩を掴み、ゆっくりと真白さんが首に吸い付く。一瞬、チクっとした痛みを感じて身体が揺れた。噛まれたのかと怯んだけど、構わず言葉を呟き続ける。 ふと、真白さんの動きが止まった。のろのろと俺から顔を離して俺を見つめる。そして、俺の呟きに耳を傾けた途端、傘を放り投げて飛び退いた。 「おい…それって…。ち、ちょっと待て…っ」 「真白、何してるんだ。早くやれよ…」 「いや、だって今あの子…」 俺はゆっくりと顔を上げて、言い争う2人を見た。

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