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第90話 絶体絶命

訝しげに俺を見ていた鉄さんが、目を見開き慌て出す様子がわかった。もしかして、ほんとに効いてたりする?ねぇ、ばあちゃん…。 「おまえ…な、にやって…っ。なんでそんなものを知ってる。だっておまえは椹木…、いや…でも…」 「……」 全て言い終え、最後に指をぱちんと鳴らす。俺は、はあっーと息を吐いて肩の力を抜いた。 ーーよし、とりあえず言った。はぁ…疲れた。 恐る恐る2人を窺うと…。 「あ、あれ?」 雨の音だけが響く静寂の中、鉄さんと真白さんが、驚いた顔をして俺を見つめていた。 あまりの反応の無さに、やっぱりただの気休めだったのかと肩を落とす。 「お、おまえ…」 ーーあ〜、あれは呆れて固まってるんだな…。なんか俺、厨二病みたいじゃん…。 「な、何っ…?」 俺は恥ずかしさを隠すように、少し怒って答える。 「おまえ、何をしたっ!なんでおまえにこんな事が出来るんだっ。くそっ」 「え、えっ?どういう事?」 「え〜、椹木くん、やるねぇ。僕ら、身体が痺れて動けないんだけど…。ねぇ今のって…、あっ、ヤバいっ。今ので僕の結界が破られて、狐と…天狗が向かって来てる!」 どうやら顔は動かせるようで、雨が降り注ぐ空を見上げて、真白さんが叫んだ。真白さんの声に振り向いた鉄さんの手から、傘がぽろりと落ちる。 「はあっ?今来られるとマズいじゃないかっ」 「そうだね…動けないもんね。僕らフルボッコかな…」 「……ろがねさまっ…」 どこかから声が聞こえて来たと思ったら、俺と2人の間に黒いスーツを着た天狗が降りてきた。 「織部っ、ちょうどいい所にっ。僕と真白を連れて早くここを離れろ」 「…はい。お姿が見えないので心配しました」 織部さんは2人を軽々と両脇に抱えると、ちらりと俺を見て、素早くこの場を飛んで離れた。 3人の姿が煙る雨の中に見えなくなって、緊張の糸がぷつんと切れた俺は、その場にずるずると座り込んだ。

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