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第92話 蛇の毒
「ん…あっ、あつ…い」
吸われてる首筋が燃えるように熱い。
すぐに清忠が離れて渋い顔をする。俺は、どうしたんだろうと、ぼやける瞳で清忠を見た。
「浅葱…どうしよう…。ほんの少量みたいだけど、毒が身体に回ってしまってる。あんまり吸い出せなかった。それに、凛ちゃんの身体がどんどん熱くなってるんだ…。早く連れて帰って着替えないと、濡れたままじゃますますひどくなる…」
「わかった。急いでホテルに連れて帰ろう。それから俺は、銀様を呼んでくる。銀様なら、必ず凛を助けてくれる」
熱のせいか視界がぼやけて、ぐわんぐわんと頭の中で音が鳴り響く。そのため2人の声が聞き取りにくい。
「え…?銀ちゃん…駄目、心配かけちゃう…」
「ん?凛は何も心配しないで休みな。ホテルまで運ぶからちょっと揺れるけど我慢してね。苦しくなったら言って」
そう言って浅葱が俺を抱き上げたところで、ふっと俺の意識が途絶えた。
額に触れる何かの感触に気付いて、ゆっくりと目を開ける。目の前に、眉尻を下げた情けない顔の清忠がいた。
「ここは…?」
「凛ちゃんっ。気がついた?ここはホテルの部屋だよ。濡れた身体も拭いて服も着替えたから、とりあえず今はゆっくり休んで。もうすぐ一ノ瀬さんが迎えに来てくれるからな」
俺は布団に寝かされていた。傍に座る清忠が、俺のこめかみや首に浮かぶ汗を、タオルでこまめに拭いてくれる。
「そんな早く、は…来れない…よ」
身体が怠くて、声を出すだけでとても息が苦しい。
「浅葱から聞いたんだけどな、一ノ瀬さんは凛ちゃんが心配で、信州にある天狗の郷に今日から来てたんだって。一応、郷の上層部に挨拶しないといけないから、先に浅葱が俺達の様子を見に来たんだって。そこで、慌ててる俺を見つけて、一緒に凛ちゃんを探してくれたんだ」
「銀ちゃん…近く、に…いる、の…?」
「そうだよ。すぐに会えるよ」
俺の目の奥が熱くなって、涙が溢れてきた。
「俺…っ、また銀ちゃんに…心配かけさせちゃ…う。いつも、迷惑ばっ…かり、かけて…っ、ぐすっ」
清忠が、俺の頰を流れ落ちる涙を優しく拭っていく。
「凛ちゃん。一ノ瀬さんは凛ちゃんの旦那だろ?迷惑かけて当たり前じゃね?いっぱい迷惑かけて、心配してもらって、いっぱい甘えたらいいんだよ。今日これから一ノ瀬さんが来たらさ、『銀ちゃんっ、怖かったー』って抱き着いたらいいの!絶対一ノ瀬さんは、見てる方が恥ずかしくなるくらいの甘い顔して凛ちゃんを慰めるよ。今は身体も弱ってしんどいんだから、素直に甘えまくっときなよ」
ーーいいの?俺…心配かけてばかりなのに、その上に甘えても…いいの?
清忠の言葉に頷いたその時、部屋の扉がノックされた。すぐに扉が静かに開いて、同室の倉橋が入って来た。
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