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第97話 帰宅

信州の天狗の郷では、3日ほど世話になった。俺が起き上がれるようになるとすぐに、俺の身体に負担がかからないようにと、ここの郷の人(天狗)に、車で時間をかけて家まで送ってもらった。 ほんとは、俺はもう少し安静にしてた方がよかったんだけど、早く銀ちゃんと2人きりになりたくて、我が儘を言って帰って来たんだ。 結局俺は、鉄さんの事を銀ちゃんに話せていない。夏の一件で、未だに鉄さんの事で心を痛めてる銀ちゃんに、また殺されそうになったなんてとても言えなかった。 だって、あの一件の後に「次にまた、くろがおまえを手にかけるような事があれば、俺は迷わずくろを消す」と言っていたから。 兄弟ともいえる鉄さんを、銀ちゃんの手で傷付けさせたり、ましてや命を消すような事はさせたくない。そんな事になったら、優しい銀ちゃんは苦しむだけだ。 だから、俺は蛇の妖に襲われたとだけ伝えた。 幸い、鉄さんや後から現れた織部さんの匂いは、激しい雨に流されて消えていたようだった。 それと、ばあちゃんに教えてもらった言葉の事も言わなかった。たぶんあれは、俺の言葉が効いた訳ではないと思う。俺にそんな力はないのだから…。2人が動けなくなったのは、きっと他に何か理由があったんだ。そう、思い込もうとした。 家に着いた日は、俺が疲れただろうからと、銀ちゃんの部屋で銀ちゃんの布団で銀ちゃんの腕に包まれて、ゆっくり過ごした。 翌日は、3日前に帰って来ていた清忠が、俺の好きな店のわらび餅や大福を持って見舞いに来た。 清忠は、玄関で銀ちゃんを見るなり深く頭を下げた。 「一ノ瀬さん、すいませんでしたっ。俺が凛ちゃんの傍を離れたばっかりに、凛ちゃんを危険な目に合わせてしまいました…。凛ちゃんもごめんっ」 「な、なんで清が謝るんだよっ。悪いのは勝手に動いた俺なんだから…。俺の方こそ、心配かけてごめん…っ」 「清忠、頭を上げろ。おまえは凛を助ける為に、必死に動いてくれたんだろ?浅葱から聞いてる。それに、凛から聞いた真白という名の蛇の妖…。おまえが敵う相手ではなさそうだ。まあ、おまえも無事で良かった」 「えっ…」 がばっと顔を上げた清忠が、珍しいものを見るような目で銀ちゃんを見る。 「凛ちゃん…、一ノ瀬さんが…俺に優しいっ。なんで?」 「ぷっ…、清、失礼だよ。銀ちゃんは元から優しいよ」 「それは凛ちゃん限定だろ。なんか怖い…」 俺の肩を抱いて、指で俺の頰をくすぐっていた銀ちゃんが、清忠を睨み付ける。 「なんだ…、清忠は俺に怒られたいのか?」 「いえっ、とんでもないです!お、俺、凛ちゃんの元気な姿見れたし帰るわ…っ。お邪魔だろうし。じゃあまた学校でなっ」 清忠は早口でまくし立てると、俺に手を振り銀ちゃんに一礼して、ばたばたと走り去って行った。

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