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第107話 初詣
倉橋の家の神社は、一応、観光案内の冊子にも載ってるらしく、かなりの数の初詣客で賑わっていた。
俺と清忠は、手水舎で手を洗い口をすすいでから参道に並んだ。20分ほどかかってようやく参拝を済ませ、お守りの販売所へ向かう。
俺は、銀ちゃんに初詣を断られた事を思い出して、清忠に尋ねた。
「清は普通にお参りしてたけど、神社に来ていいの?」
「なんで?俺は行きたかったら普通に行くよ?ああ…そっか、一ノ瀬さんの事を気にしてるんだ?あの人は、単に行きたくなかっただけじゃないかなぁ?」
ーーそうか…。神社に入れないとかじゃないんだな。まあ、昔に会ってた場所も神社だったし、それはないか…。
「ここには来たかったんだ?」
「う〜ん…、恐いもの見たさと言うか何と言うか…。前に倉橋が、ここの神使は狐だと言ってただろ?俺ら妖狐からしたら格の高い狐様でね…。会うのは嫌だけど気にはなったから、ちょっと挨拶をしておこうと思ったんだ」
「ふ〜ん…そうなんだ。でもなんかビクビクしてない?」
「だって…っ、すっごい恐いんだからなっ。ここに来てからずっと、本殿の屋根の上からこっちを見てるし…」
「えっ、ほんと?」
「あっ、馬鹿っ、見るな!妖とは次元の違う強さで滅茶苦茶恐いんだぞっ。絶対に目を合わせちゃ駄目だからなっ。…って言っても、凛ちゃんの目では見れないと思うけど」
「え〜、そうなの?見てみたかったな…残念。あっ、倉橋がいる!」
販売所に着いて清忠とそんな話をしながら順番を待っていると、白い着物に水色の袴を履いた倉橋が、中でお守りを売ってるのに気付いた。
俺達の順番がきて、倉橋の前に立ち声をかける。
「あけましておめでとう!倉橋、正月から働いてんの?」
「あっ、椹木に真葛。来てくれたん?おめでとう。そうやねん、偉いやろ?お守り買うん?」
「うん、どれにしようかな…」
「椹木はこれにしたら?」
そう言って、倉橋が魔除けのお守りを指し示す。
一瞬、どきりとして言葉に詰まった。
「え?いや…それはいいや。やっぱり学生は学業だよな。これにするよ」
「ふ〜ん、真葛は?」
「俺も凛ちゃんと同じので」
「わかった。じゃあ、500円になります」
それぞれにお金を払い、お守りの入った袋を受け取る。
「俺さ、もうすぐ休憩入るから待っててくれへん?あそこに大きな松の木があるやろ?あそこで待ってて」
「おう、わかった」
清忠が返事をして俺も頷く。
倉橋はにこりと笑うと、隣の人に断って席を立ち、販売所から出て行った。
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