107 / 287

第107話 初詣

倉橋の家の神社は、一応、観光案内の冊子にも載ってるらしく、かなりの数の初詣客で賑わっていた。 俺と清忠は、手水舎で手を洗い口をすすいでから参道に並んだ。20分ほどかかってようやく参拝を済ませ、お守りの販売所へ向かう。 俺は、銀ちゃんに初詣を断られた事を思い出して、清忠に尋ねた。 「清は普通にお参りしてたけど、神社に来ていいの?」 「なんで?俺は行きたかったら普通に行くよ?ああ…そっか、一ノ瀬さんの事を気にしてるんだ?あの人は、単に行きたくなかっただけじゃないかなぁ?」 ーーそうか…。神社に入れないとかじゃないんだな。まあ、昔に会ってた場所も神社だったし、それはないか…。 「ここには来たかったんだ?」 「う〜ん…、恐いもの見たさと言うか何と言うか…。前に倉橋が、ここの神使は狐だと言ってただろ?俺ら妖狐からしたら格の高い狐様でね…。会うのは嫌だけど気にはなったから、ちょっと挨拶をしておこうと思ったんだ」 「ふ〜ん…そうなんだ。でもなんかビクビクしてない?」 「だって…っ、すっごい恐いんだからなっ。ここに来てからずっと、本殿の屋根の上からこっちを見てるし…」 「えっ、ほんと?」 「あっ、馬鹿っ、見るな!妖とは次元の違う強さで滅茶苦茶恐いんだぞっ。絶対に目を合わせちゃ駄目だからなっ。…って言っても、凛ちゃんの目では見れないと思うけど」 「え〜、そうなの?見てみたかったな…残念。あっ、倉橋がいる!」 販売所に着いて清忠とそんな話をしながら順番を待っていると、白い着物に水色の袴を履いた倉橋が、中でお守りを売ってるのに気付いた。 俺達の順番がきて、倉橋の前に立ち声をかける。 「あけましておめでとう!倉橋、正月から働いてんの?」 「あっ、椹木に真葛。来てくれたん?おめでとう。そうやねん、偉いやろ?お守り買うん?」 「うん、どれにしようかな…」 「椹木はこれにしたら?」 そう言って、倉橋が魔除けのお守りを指し示す。 一瞬、どきりとして言葉に詰まった。 「え?いや…それはいいや。やっぱり学生は学業だよな。これにするよ」 「ふ〜ん、真葛は?」 「俺も凛ちゃんと同じので」 「わかった。じゃあ、500円になります」 それぞれにお金を払い、お守りの入った袋を受け取る。 「俺さ、もうすぐ休憩入るから待っててくれへん?あそこに大きな松の木があるやろ?あそこで待ってて」 「おう、わかった」 清忠が返事をして俺も頷く。 倉橋はにこりと笑うと、隣の人に断って席を立ち、販売所から出て行った。

ともだちにシェアしよう!