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第108話 清忠の正体

清忠と松の木を見上げてると、「お待たせ」と上にコートを羽織った倉橋が走って来た。 「急がなくてもよかったのに…」 俺が笑って言うと、倉橋が俺達を手招きする。 「いや、待たせると悪いし。ほなあっちに行こか。俺に付いて来て」 そう言って歩き出す倉橋の後を、俺と清忠は付いて行く。 倉橋に連れて来られたのは、神社の敷地の中にある小さな池の側だった。池の中を数匹の鯉が泳いでるのが見える。 「へぇ…、いい庭だね。これは梅の木?」 清忠が、池の側に立つ木の枝を触りながら聞いた。 「そう。来月の末には咲き始めると思うで。なあ真葛。うちの神社どうやった?大丈夫なん?」 倉橋の言葉に、清忠はばっと振り向き目を泳がせた。 「え…なん…なんで?」 「俺さ、こういう所で生まれ育ったからか、何となくわかるねん。真葛は人じゃないやろ?」 「は?なっ、何言ってんだよ…っ」 動揺して明らかに挙動不審な清忠の態度は、「はい、そうです」と言ってるようなものだ。 でも、倉橋の言葉には俺も驚いた。俺はどうしようかと迷ったけど、口を挟んで余計にややこしくなっても困るので、黙って見ている事にした。 「あはは、そんなに慌てなくても大丈夫やって。別に、どうこうしようと思ってないし、誰にも言わへん。ただ、今まで妖の友達なんていなかったから、話してみたかっただけや」 「う…あ…そう…」 未だ腕を上げたり下げたり、目をきょろきょろさせている清忠を見て、俺は可笑しくなってぷっと吹き出してしまった。

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