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第110話 倉橋の正体

「げぇっ、おまえ陰陽師の家系かよっ。何か引っかかる名前だと思ったんだよな…。やめてくれよっ、俺は何も悪い事はしてないからな!」 清忠がいきなり大きな声を上げて、俺の後ろに隠れた。 「そんなに怖がらんといて。俺は、余程の悪い妖にしか術は使わん」 「ほんとに?」 「ああ、逆に真葛がピンチの時は助けたる」 「お、おう…ならいいけど」 そろりと俺の背後から出て来ても、清忠はまだ疑いの目で倉橋を見ていた。 「陰陽師って何?」 俺は2人のやり取りを見て、何となく妖にとってはよくない物なんだと思いながら尋ねた。 「術を唱えて魔を退ける力を持つ人のこと。昔は星を見て占ったり学者みたいなこともしてたみたいやで。でも、陰陽師の家系と言っても、全員がそんな力を持ってるわけやない。今現在、倉橋家では、俺と他に数人いるだけや。俺の父親なんて一切そんな力ないしな」 何かの小説の中にでも出て来そうな話に、俺は余所の世界の事のように聞いていた。 「へぇ…、なんかすごい話だね。じゃあ倉橋は妖と戦ったりした事あるの?」 あんなに力の強い妖と人間が、対等にやり合えるのだろうかと疑問に思う。 「まあ数回。戦うっていうか、絡んできた妖を懲らしめただけや…。昔に比べて妖の数も減ったし、ひどい悪さもせえへんしな。まあ、人間と妖がうまく共存して暮らせてるのはええ事やわ」 「ふ〜ん…。でもすごい人間がいるんだね」 妖を倒せる魔法みたいな力を持つ人間がいる事に、心から驚いた。 でもさっきから何かが引っかかり、頭の中がもやもやとする。 ーー何だろう、この感じ。何かが気になる…。 俺は「陰陽師…術…唱える…」と呟いて、ある事を思い出した。 でもその考えを打ち消すように、軽く頭を振る。 ーーふふ…まさかね…。そんな話、一度も聞いた事ないし。気のせいだろう…。 「ま、2人とも困った時は俺を頼ってよ」 倉橋の力強い言葉に、俺と清忠は曖昧に笑って返した。

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