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第111話 溺愛
あれから倉橋は「また今度ゆっくり来てな」と言って、販売所に戻って行った。
俺と清忠は駅前に戻り、駅近くのビルの中で服屋を何軒か見て回った。お互い、バーゲンの服を数着買っただけで、人混みに疲れて早々に帰って来た。
俺が夕飯の準備をしていたら、銀ちゃんも郷から戻って来た。
頰が少し赤く染まり、近寄るとお酒の匂いがする。
「銀ちゃんおかえり。いっぱい飲んだの?大丈夫?」
「ん…ただいま。少しだけだ。おまえは楽しかったか?」
「うん、お守りも買ったしおみくじも大吉だったよ。ね…、郷にお酒飲んだら飛ぶのは禁止、みたいなルールはないの?」
心配して尋ねた俺を後ろから抱きしめ、俺の頰を唇でくすぐる銀ちゃんから少し顔を背ける。
「ないな…。本人の自己責任だ。それに俺は酔ったとしても、まっすぐに凛の元へ飛んで帰って来れる」
「え〜?危ないな。てか、やっぱり酔ってるでしょ?」
さっきから俺の腰を抱き寄せて、頬擦りをしたり顔中に唇を這わせるので、こそばゆくて仕方ない。
「ふふ、可愛い…。明日は俺の嫁として郷に行くけど、楽にしてていいからな。はぁ…なんか行くのが面倒臭くなって来たな…。このままずっと2人で過ごしていたい」
銀ちゃんが、今度は俺の首筋に顔を埋めて、すんすんと匂いを嗅ぎだした。
最近、銀ちゃんの俺に対する行動が、変態っぽくなってきてるような気がして心配になる。
「んもうっ、くすぐったいって!てか、銀ちゃん…、俺の腰に何か当たってる…っ」
「…ん。おまえと密着してるんだから当たり前の現象だろ。凛、夕飯は後にして先におまえを食べたい」
銀ちゃんが俺を覗き込んで、情欲に光る目で見つめる。
いつまで経ってもその目に慣れない俺は、胸をどきどきとさせて小さく頷いた。
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