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第120話 反発
銀ちゃんに鋭い目で睨まれて、皆んなが口をつぐみ、部屋の中が静かになる。
ずいぶんと長い時間、沈黙が続いた。
ようやく顔色を青くした縹さんが、ひどく苦しそうに、眉間にしわを寄せて重い口を開いた。
「凛くん…。私は君がとてもいい子で、銀の事をすごく想ってくれているのを知っている。それに、私は君の事が好きだよ…。だけど、賀茂家は駄目だ…。すまないが、銀と凛くん、おまえ達のことは無かった事にしてくれないか。ずいぶんと昔に、我々の仲間が賀茂家の陰陽師に殺されている…。いわば、賀茂家は我等の敵だ。少し前までは、賀茂家の者を見つけたら『殺せ』と言われていたのだ。さすがに今は殺しはしないが、それでも馴れ合う事など決してない。ましてや、婚姻関係を結ぶ事などあってはならない。幸い、銀と凛くんは身体を繋げて契約は成立させているのだろう?もう、凛くんの命が削られる心配はないのだから、今離れても問題はないだろう…」
まるで心臓を鋭い刃で貫かれたかのように、胸が痛い。縹さんの言葉に恐る恐る顔を上げて振り向くと、幾つもの鋭い視線が、俺を射るように注がれていた。
俺は恐ろしくなり、銀ちゃんの服をぎゅっと握りしめる。俺の背中に回された銀ちゃんの腕にも力がこもった。
「おい…何勝手な理屈をぬかしてやがる。賀茂家だとか昔の仲間がどうとかどうでもいいんだよ!俺は、凛を一生愛すると誓って契約をしたんだ。もう、凛がいなけりゃ俺は生きていけない…。俺は絶対に凛と離れない。もし、凛がおまえらに脅されて別れると言ったとしても、絶対に手放さないからなっ!凛と離れるくらいなら、俺はこの郷を捨てる。俺には凛さえいればいい。はあっ……ちっ…、胸糞悪い。こんな所に1秒だっていたくねぇ…。帰るぞ、凛」
銀ちゃんが俺の手をしっかりと握って部屋の中を一瞥すると、開け放たれたままだった障子から出て行こうとする。
「まっ、待てっ!銀!」
「うるせえっ!俺達が出て行くのを邪魔したら容赦しねえぞっ」
縹さんの呼び止める声に怒鳴り返して、銀ちゃんが俺の手を強く引っ張る。俺達は後ろを振り返らずに、足早に銀ちゃんの部屋へと向かった。
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