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第138話 壊れる身体
冷水を浴びて頭と身体がすっきりとした俺は、清忠を起こさないように台所へ入り、簡単な朝ご飯を作った。
野菜スープとカフェオレ、清忠が持ってきてくれたパンをコタツ机の上に並べ終えると、清忠を起こす。
清忠はのそのそと起き上がり、大きく伸びをしてから俺を見て微笑んだ。
「凛ちゃんおはよ。寝れた?ごめん…俺、熟睡しちゃってたけど、大丈夫だった?」
「おはよ、大丈夫だよ…。ほら、ご飯も作れるくらい元気なんだから心配しないで」
「ん、なんかすっきりした顔してんね。良かった…。あ〜腹減った。すぐ顔洗ってくる!」
「うん…」
急いで洗面所へと向かう清忠の背中を見る。俺は上手く笑えてるだろうか。
冷水を浴びた為に、まだ手足の先がじんじんと冷たい。この冷たい手を暖かく包んでくれる大きな手が恋しい。俺は溢れてくる思いを押さえ込むように、胸辺りの服を握りしめた。
清忠が、今日も1日俺と一緒にいると言ったけど、休みの日に付き合わせるのは悪い。それに、傍にいてくれるのは嬉しいけど、今は何も考えずに一人きりになりたかった。だから、俺は大丈夫だと示すように、元気に笑って話した。
「清…、昨日は取り乱してごめん。それと、色々ありがと。俺は、銀ちゃんから聞いたわけじゃないし、やっぱり銀ちゃんを信じて待つよ。俺には待つしか出来ないし…。結婚の話が出てたとしても、絶対に銀ちゃんの意志じゃないってわかるから」
「そっか…、うん、わかった。でも、絶対に一人で抱え込むなよな。俺に頼りたかったらすぐに言えよ?だって、俺達は親友なんだから!」
「ふふ、わかった。清は親友だもんな。じゃあまた月曜日に」
「おう、迎えに来るから」
清忠が何度も振り返って帰って行くのを、俺は笑いながら見送った。
清忠の姿が見えなくなると、玄関の鍵を掛けて銀ちゃんの部屋にこもる。まだ敷いたままだった布団に潜って大好きな匂いを吸い込んだ。
ーーあ…匂いがまた薄くなってる…。銀ちゃん…、この匂いが全部消えてしまう前に帰って来てよぅ…。
また心がぎしぎしと痛み出す。堪えるように唇を噛み身体を丸めて目を閉じた時に、気付いた。
悲しくて寂しくて、それが俺の限界を越えてしまったのか、もう俺の目から涙が出なくなっていた。
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