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第141話 悲嘆
雪が思いの外積もっていて、早く走れない。気持ちばかりが急いて、動きの鈍い身体に焦りが募る。
ようやくいつも銀ちゃんと会っていた神社に着いた頃には、髪の毛も銀ちゃんとお揃いのパジャマも、靴もびっしょりと濡れていた。
俺は、構わず神社の裏から山に入る。
「銀ちゃんっ、どこっ?俺に会いに来てくれたんじゃないのっ⁉︎」
静かな山に俺の声だけが響き渡る。銀ちゃんの名前を呼び続けながら、どんどんと山の奥へ入って行った。
どれくらいの時間を歩いたのか、さすがに手足の先が冷えてじんじんと痛み、身体が寒さでぶるぶると震えてきた。
歯をカチカチと鳴らしながら歩いていると、見覚えのある場所に出た。
ーーここは、昔に銀ちゃんによく連れて来てもらっていた場所だ。という事は、天狗の郷の領域内には入れたんだ。このまま行くと、もしかして銀ちゃんがいる郷にも行けるかもしれない…。
寒さと疲れでふらふらしている上に、そんな事をぼんやりと考えていたから、俺は雪で足を滑らせた。倒れた身体が雪に埋もれた斜面を滑り、途切れた地面から放り出される。
ーーあ…俺、また崖から落ちてる…。ほんと、馬鹿だな…。
自分でも呆れて笑いが漏れた。
ーーでも、もうこのまま死んでもいいや。
そう思って目を閉じた瞬間、俺の身体が抱き留められてふわりと宙に浮いた。
俺は、驚いてはっと目を開ける。でも後ろから抱きしめられているから顔がわからない。
俺のお腹に力強く回された腕を握りしめ、震える唇を開いて声を絞り出す。
「ぎ、んちゃん…?」
崖の上に降り立つと、俺は緩んだ腕の中でゆっくりと振り返り上を見上げた。
俺を力強く抱き留めてくれたのはーー。
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