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第142話 悲嘆
「あ……、な、なんで…?…なんで、俺を助けるのっ?何回も俺を殺そうとしたくせに…っ、なのに、なんでっ!」
俺を抱き留めた腕は、鉄さんのものだった。散々、俺を殺そうとしたくせに。今更どうして俺を助けるのだろう。
俺は苦しさに顔を歪めて、ある事に思い至る。
「もしかして…殺すよりも、生かしてもっと俺を苦しめたかったの?ぼろぼろの俺を見たかったのっ⁉︎お、俺はもう…心も身体もっ、全部ぼろぼろだよ!辛くて死にそうだよっ!もうこれ以上…俺を苦しめないでよ…っ」
俺は鉄さんの着物を強く掴んで、彼の胸に額を押し付けて叫んだ。
はあはあと俺の呼吸が速くなり、息が苦しくなる。まだ、聞きたい事があるんだ。俺はぐっと身体に力を込めて鉄さんを見上げて聞いた。
「ねぇ、教えて…。銀ちゃん…のっ、結婚が…決まったって、ほんと?俺以外の、誰かと…結婚…するの…っ?」
すると、今まで無表情に俺を見ていた鉄さんが、微かに苦痛に歪んだ顔をして、ゆっくりと口を開いた。
「ああ…決定した。春には婚儀を挙げる事になる…」
「…っ!あ…や、だ…っ、そんなの…やっ、はあっ、はあっ…」
俺は、急速に呼吸が速くなり息が出来なくなる。手足の先が痺れて目の前がチカチカと白く点滅する。
このまま天狗の郷へ行って、銀ちゃんに真相を聞きたい。鉄さんに連れて行ってくれるように頼みたいのに、俺の意識が深い闇に飲まれていく。
意識が途切れる寸前、震える俺の身体が、鉄さんに強く抱きしめられた気がした。
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