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第143話 鉄side
僕は、天狗一族を統べる『一ノ瀬 縹(はなだ)』の弟、『一ノ瀬 蘇芳(すおう)』の息子として生まれた。
父親の兄の所には、僕より半年早くに男の子が生まれていた。その男の子は、生まれた時に背中にちょこんと生えた翼が銀色だった為、銀(しろがね)と名付けられた。それに対抗するかのように、漆黒の翼が生えていた僕には、鉄(くろがね)という名前が付いた。
僕の父親とその兄である縹おじさんは、あまり仲が良いわけではなかった。
でも、しろの母親と僕の母親は仲が良かった為、しょっちゅうお互いの家を行き来して、僕としろを遊ばせていた。
物心が付いた頃には、僕はしろが大好きになっていた。綺麗な顔をして何でも出来て優しい。
僕の父親も言っていたけど、「銀色の翼なんて気持ち悪い」と陰口を言われても、いつも凛とした姿はとても眩しかった。
だけど、小さな子供が陰口を言われて何も感じないわけがない。不貞腐れたしろは、僕と一緒にやっていた強い天狗になる為の勉強を、よくさぼるようになった。
でも、たまにしか勉強に来ない割に、僕よりも優れていたしろを、僕は憧れて止まなかった。
父さんは「あいつは銀色の翼を持つ変わり者だ。あんな奴が当主になるのは納得できん。次の当主は、同じじいさんの血を受け継ぎ、とても艶やかな黒い翼を持つおまえがなれ」と、よく言っていた。
僕はその話をされるのが、とても嫌だった。
ーー翼の色が違うからって何がいけないの?第一、僕よりしろの方が何でも出来て当主に向いている。それに、銀色の翼を持つ天狗なんて今まで無くて、しろは唯一無二の選ばれた存在なんだ。僕は当主になんてならない。当主になったしろを、一番近くから助けてあげるんだ。
そう思っていたから、父さんから変な期待をかけられるのがとても苦痛だった。
しろは、よく天狗の郷の領域内の山の中へ遊びに行っていた。僕と一緒に遊びに行く事もあったが、勉強をさぼった時にも、1人でふらふらと遊びに行ってるみたいだった。
あれは僕達が9歳の年の秋、しろが、その日も勉強をさぼって山の方へ飛んで行くのを見かけた。
僕も一緒に付いて行きたいと思ったけど、勉強をさぼる勇気が無い。口酸っぱく言う父さんが嫌なくせに、逆らう事が出来ないんだ。
僕はただ、しろが飛んで行った空を羨ましく見上げるしかなかった。
そして、しろは運命の出会いをして帰って来る。
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