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第146話 鉄side

しろの契約相手だという奴に、いつ会いに行ってどうしてやろうか…と考えてるうちに、夏休みに入った。 夏休みに入ってすぐに、しろが郷に戻って来たと聞いて僕も戻った。 しろ自身が、初めは契約相手を女だと思っていて、一緒に暮らし始めてから男だと気付いて戸惑っていたはずだった。 それなのに、しろは『自分には結婚の契約を交わした相手がいること、その人は人間でしかも男だったけど、男だとわかっても好きなこと、契約通り、彼を自分の花嫁にしたいこと』を、郷の上層部に説明しに奔走していた。 僕は悠長に構えていられないと、しろの命令で、しろの契約相手の様子を見に行くという織部に「僕も連れて行け」と命令した。 織部は忠実な部下だ。僕の命令を一番に優先する。子供の頃、うちの使用人の子供達で遊んでる時に、織部が一番小さいという理由で虐められていた。それを助けてあげたからか、僕の命令は絶対に聞く。 しろの人間界で住む家に向かう途中、「しろの花嫁だという男、郷に連れて帰るぞ」と呟くと、すべて心得てるとばかりに、織部はしっかりと頷いた。 しろが住んでる家は、中々に風情のある日本家屋だった。まず、織部が呼び出してる間、僕は庭の木の陰に隠れて様子を見る。玄関扉が開いて顔を出したのは、男だと聞いていなければ、女だと思ってしまうくらいの可愛らしい人物だった。 少し色素の薄い柔らかそうな髪の毛に、白い肌、くりくりの大きな二重の目、小さな唇…。 まあ…しろが間違えたのもわかる気がする。 織部に呼ばれて彼の前に進んだ。 僕が挨拶をすると、大きな目をぱちぱちとさせて、慌てて「椹木 凛です」と挨拶を返してきた。 驚いた事に彼は、しろが自分を女と間違えて契約したから花嫁ではない、というようなことを言った。その割に、しろがいなくて寂しそうにしている。 ーーもしかして、お互いを想ってはいるけど、2人はまだ、気持ちを確かめ合っていないのかもしれない。なら、今のうちに何とか阻止しなければ。 凛の家に上げてもらい話をしているうちに、しろはこういう子が好きなのか…と、またじわりじわりと苛立ちが僕の中に広がっていった。 そして、凛を強引に誘って、郷に連れて帰る事に成功した。

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