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第149話 鉄side

信州の山の中に真白はいた。 真白の物だという家は、別荘地らしく周りが木々に囲まれていて、とても静かな場所にある。僕が隠れるにはちょうど良かった。 真白は、僕が来た事をとても喜んでいた。しかし、妙に鋭い奴だから、何かあったのかとしつこく聞いてくる。まあ、何かあった時には、こいつにも協力してもらうつもりだったから、僕は気に入らない人間の話をした。 僕の話を聞き終えた真白が、何とも言えない難しい顔をしていた。もしかして、凛に同情してるのかもしれない。 真白は、優しい性格をしている。昔に僕が助けたあの時も、喧嘩した相手の妖に対して、あまり手を出せなかったらしい。だから自分の方がひどい怪我をして困っていたんだ。 「なんだ、僕をひどい奴だと軽蔑してるのか?おまえは命の恩人の僕に、借りを返さないといけないんじゃなかったっけ?まあ、僕の事が嫌なら別にいいよ。世話になったね。すぐに出て行くよ」 「えっ、待ってっ!鉄を軽蔑なんてしないよっ。それに必ず借りは返すからっ。だから出て行かないでよ、ね?」 今一度、真白の気持ちを確認するように少し怒ってみせると、真白は慌てて僕をなだめようとする。 僕は真白に気付かれないように、こっそりと笑った。 一緒に付いて来た織部は、買い出しや情報収集の為に、よく街の方へ出掛けていた。 ある日、帰って来た織部から聞いた話に、とても驚く事になる。 あんなに深い谷底に落ちた凛が、生きていたのだ。 翼を持たない凛が、なぜ?どうやって? ふと、落ちて行く凛の顔を思い出して、また胸の奥がちくりとした。 ーーくそ…っ、まただ…。胸の奥がもやもやして気持ち悪い。あいつがしぶとく生きていたから、悪いんだ。今度会った時にはどうしてやろう…。 僕はその日から、毎日、凛の事ばかり考えるようになった。 真白にも、僕の嫌いな人間の話を毎日した。 「死んだと思ってた凛が生きていた。本当にしぶとくて腹が立つ。次に会った時には、必ず息の根を止めてやる。ふん、さてどうしてやろうかな…」 「へえ…、崖から落ちて助かるなんてすごい子だね…。でも、その子の事を考えてる時の鉄って……」 「なに?」 「えっ、いやっ、なんか嬉しそうだな〜って…」 「はあ?何言ってるんだ?あいつの事を考えるとむかむかして気持ち悪いのに。ちっ、おまえもその時が来たら協力しろよな」 「…はい」 何を訳のわからない事を言ってるんだ、こいつは。 僕は真白から視線を外すと、またぶつぶつと呟きながら凛の事を考え始めた。

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