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第150話 鉄side

10月半ばのある日、突然にその日はやって来た。 織部は買い出しに出掛けていて、僕と真白がリビングでくつろいでいると、真白が「あっ」と声を上げて立ち上がった。 「なに?」 「今、僕の結界の中に誰かが入って来た。ちょっと様子を見て来る」 「ふ〜ん、わかった」 そう言って、真白は出て行った。 30分ほどしてから、真白は戻って来た。慌ててリビングに入って来て、薬や包帯などを箱に入れている。 「騒がしくてごめんね。人の子が斜面から落ちて怪我したみたいで、僕の結界の中で困ってたんだ。手当してあげようと思って…」 僕の方をちらりと見て話す真白に、物好きな奴だと溜め息を吐いた。その時、ふいに真白から懐かしい匂いが流れてきた。 ーーこれは…しろの匂い?しろの匂いが付いた人間といえば…まさかっ。 僕の心臓がどくどくと早鐘を打ち始める。と、同時に急速に気分が高揚し出した。 僕は逸る気持ちを抑えて、真白の後をゆっくりと付いて行った。 真白が手当てをしている後ろから覗くと、そこには思った通りの人物がいた。 ーーなぜこんな所に。おまえの登場を予期していなかったから、不覚にも興奮してしまったじゃないか。毎日、おまえの事を考えていたんだ。ああ…いよいよだ。 手当てが終わり、安心した様子の凛の背後から声をかけた。嬉しくて僕の声が少し震える。 ……?嬉しい?今、なんでそう思ったんだ? 一瞬、戸惑ってしまったが、恐怖で固まる凛を見て、僕は凛を追い詰める事だけに集中した。 凛に顔を近付けると、今までにないくらい、しろの匂いがきつい。僕は、凛がしろに抱かれたんだと気付いた。途端に僕の胸が、またむかむかし始める。 そこに、振り払った凛の手が僕の顔に当たり、拒絶された事にますます腹が立って、凛の手首を掴んだ。 僕は、怒りを露わに凛の手首を折る勢いで握りしめる。すぐに真白が止めに入って、その隙を突いて凛が逃げ出してしまった。 どうせ、結界の外には出れないのだからと、僕は真白に凛を殺すように言って、2人で凛の後を追う。木々の間を歩きながら、先ほど凛に触れた手をじっと見つめた。なぜかわからないけど、掌がじんわりと温かい気がした。

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