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第152話 鉄side

年が明け、待ちに待った日が来た。数日前から、郷のはずれにある別荘に身を潜めていた僕は、真新しい着物に袖を通して、皆んなが集まるしろの屋敷へと向かった。 織部を従えて、堂々と正面玄関から乗り込む。使用人達が驚いて僕を止めようとしたけど、彼らを無視して、まっすぐに客間へと進んだ。 客間の障子を開け放つと、一斉に皆んなの視線が僕に向けられる。しろと並んで座っている目の前の凛をちらりと見た。 凛は、僕を見るなり怯えて俯く。それを見た僕の胸の奥が、またちりちりと痛んだ。度々ざわつく胸に自分で腹が立ち、それを振り払うかのように強く言い放つ。「凛は賀茂家の人間。我が一族にとっては許されざる存在」と。 案の定、凛は一族に拒絶される。おじさんも、凛としろに離れるように言った。だけど、しろは「そんな事は関係ない」と怒って、凛を連れて帰ってしまった。 僕の想定通りの展開に笑いが込み上げてくるが、まだ駄目だ。凛からしろを離さないといけない。 頭を抱えるおじさんに、僕は助言を与える。 「毎年のように、明後日には八大天狗が来るのでしょう?彼らが来るのに、しろがいなくては失礼ではないですか。しろも、それはよくわかってる筈です。それを理由に、しろを呼び戻しましょう。その後、当然しろは帰ろうとするでしょうが、八大に協力してもらって、しろを郷から出れないように閉じ込めたらどうですか?」 「…そうだな。私の力ではあいつを止める事が出来ないが、八大天狗の力を持ってすれば止める事が出来る…。わかった、彼らにも事情を話して協力してもらおう」 ーーさあ、ついに別れの時だ、凛。今度こそ、泣いて喚いて絶望しろ。 翌々日、浅葱に呼びに行かせて戻って来たしろに、おじさんはもう一度、説得を試みた。でも、しろの気持ちは固く、「凛と離れるなら郷を捨てる」とまで言い張る。 話が通じないなら、と帰ろうするしろを、前もっておじさんが協力を頼んでいた八大天狗に止めてもらった。怒って暴れるしろを、彼らの術で動けなくして部屋に閉じ込める。そこからしろの、監禁が始まった。 しろの部屋の周りを、八大天狗全員の力で結界を張ってあるから、しろが外に出たくても一歩も出る事が出来ない。そうすると「凛に会わせろっ!」としろが暴れ出して危ない。だから、これも八大天狗の力で、しろの身体の動きを鈍らせた。 術の効き目が弱まると、しろが暴れてまた術をかけるという事を何回か繰り返して、ようやくしろが大人しくなった。 「これ以上暴れたり郷から出ようとするなら、凛を殺すのも止むを得ない」 そう言われた事が、一番効いたのだろう。 暴れた時に身体を傷付けた為、しろと同じように郷から出られなくなった浅葱をしろの部屋へ入れて、手当てをさせる。2人の様子をそっと伺うと、浅葱は、時折り涙を流しながら、しろの身体に薬を塗っていた。

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