153 / 287
第153話 鉄side
大人しくなってから何も喋らなくなったしろだったが、出された食事はしっかりと取っていた。
しろの部屋には、風呂もトイレも付いていたから、監禁されていても清潔を保っている。だけど、身体は洗いはするけど、その他は何もやる気が起きないのか、髪の毛も髭も少しずつ伸びてきていた。
しろを監禁して10日ほど経った頃、おじさんが、しろに新たな花嫁を迎える事を決めた。
しろの力を抑える為に、この郷にずっと滞在している八大天狗の1人、僧正の妹が次期当主の嫁として相応しいという事で、彼女に決まった。僧正も、大事な妹の相手が、次期当主のしろならば問題ないと承諾した。
僕は、ようやく凛と離れたしろに、新たな花嫁が決まってショックを受けると思ったのに、不思議な事に何とも思わなかった。凛の存在を知った時は、あんなにショックだったのに…。
ただ、「この事を知ったら凛はどうするのか…」と、気が付いたら凛の事を考えていた。
おじさんが「春になったらおまえの婚儀を挙げる。相手は僧正の妹だ。その心積もりでいるように」と、しろに伝えた時、しろは胡座をかいて目を瞑り、ぴくりとも動かなかった。
しろはきっと、今、凛がどうしているのかという心配しか頭にないのだろう。そろそろ凛も友達の妖狐から、しろの結婚の話を聞いてる頃ではないか。
僕は、泣いてる凛の姿を思い浮かべて、胸が絞られるように苦しくなった。凛の傍に行き、慰めたい衝動に駆られた。
なぜだ?あんなに憎んでいた筈なのに?あんなに泣き喚く姿を望んでいた筈なのに?
ふと以前、真白に言われた事を思い出した。
『鉄は、その子の話をする時、とても愛おしそうな目をしてるよ。自分の気持ち、間違ってない?本当は憎いんじゃなくて、その子が愛おしいから執着するんだよ』
その時は『おまえは馬鹿なのか』と怒鳴りつけたけど、今になってようやくわかった気がする。
だから僕は、しろの結婚の話が出ても、もう何とも思わなかったのか…?
毎日毎日、あいつの事ばかり考えていたのはきっと…。
そこまで考えて急に凛が心配になり、僕は雪が降る暗闇の中へ飛び出した。
ともだちにシェアしよう!