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第155話 極夜

寒い。寒くて身体が小刻みに震える。そのうえ頭も痛くて吐き気がする。 とても辛い事を聞いた。辛くて悲しくて、心がずきずきと痛くて、目を閉じているのに止めどなく涙が流れ続ける。 もう、嫌だ。もう…耐えられないよ。誰か、俺を助けて…。 荒く熱い息を吐いて震える俺の身体を、誰かが毛布で包んだ上から抱きしめてくれている。時折り流れる汗と涙を拭いて、額に冷たい物を当ててくれた。 少し微睡んだ後に薄っすらと目を開けると、今度は俺の口に薬らしき物を入れて水を飲ませる。そして、髪を優しく撫でながら、「熱が高い。何も考えずゆっくり休んで。ずっと傍にいるから」と言う静かな声が、朦朧としている俺の耳に聞こえてきた。 それが、銀ちゃんの声ではない事に傷つきながらも、傍に誰かがいてくれる安心感に、また微睡み始める。 少し眠ってから、今度は身体が怠く、喉が渇いて目が覚めた。俺が動いた気配に誰かが「どうした?」と聞いてくる。「水…」と小さく声に出すと、すぐに俺の頭を支えて飲ませてくれた。 ふぅ…と息を吐いて、頭を枕に戻す。ぼやける瞳で誰かを見た。俺の瞳に、今までに見た事もない穏やかな表情の鉄さんが映る。 ーーなんで、鉄さんがいるんだろう…。また俺に何かしようとしてるのかな…。まあ、もうどうでもいいけど…。 俺が、鉄さんを見つめたままそんな事を思っていると、鉄さんが俺の額に手を当てて、そっと瞼を撫で下ろした。 「今は何も考えなくていい…。ゆっくり休め…」 静かに囁く優しい声が、少しだけ銀ちゃんに似ている。今までそんな風に思った事なかったのに…。 銀ちゃんが俺を呼ぶ時の甘さを含んだ声と鉄さんの声が重なり、俺の胸が苦しくなってまた荒い息を繰り返す。 鉄さんが、躊躇うようにそっと俺を抱きしめて、何度も背中を撫でた。 俺は、抗う力も気力もなくて、ただ久しぶりに感じる人の温かさに身を委ねると、徐々に呼吸を落ち着かせて、また眠りに落ちた。

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