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第157話 極夜
深く考え込んでいるうちに眠ってしまったみたいで、床の軋む音で目が覚めた。
静かに扉が開いて、鉄さんが俺の枕元に来て座る。
「ごめん、寝てた?あのさ、何か食べたいもの、ある?」
「…あ、甘いもの…」
「わかった」
俺の答えを聞くと、即答して部屋を出て行く。
少しすると、玄関扉を開ける音が聞こえてきた。
ーーうそ…。買いに行ってくれてる?
以前と打って変わって激変した鉄さんの態度に、俺は首を傾げてしまう。
ーー今回は、他意はないと受け止めていいのかな…?それとも、また裏切られる?俺はどうすればいいの?銀ちゃん…。
まだ身体が弱ってる俺は、ぐるぐると考え込むだけで疲れてしまう。目を閉じて悩んでるうちに、再び眠ってしまったようだった。
次に目を覚ました時には、もうお昼を過ぎていた。充分に寝たから、さすがにもう寝るのにも疲れて、ゆっくりと起き上がる。居間に行くと、俺に気付いた鉄さんが寄って来た。
「起き上がって大丈夫?」
「大丈夫…」
「じゃあ、先にお昼にしようか」
「うん…。朝のお粥、あれ…食べたい」
「わかった」
鉄さんがそう言って、俺をコタツに座らせて台所に入る。
すぐに、お茶碗に入った湯気の立つお粥を持って来た。俺がお粥を食べる隣で、鉄さんはおにぎりを食べていた。その様子を、俺はお粥を咀嚼しながらじっと見つめていたらしい。俺の視線に気付いた鉄さんが、「何?」と聞いてきた。
「えっ、いや…」
「ああ…、僕が怖いか?」
鉄さんの指摘に、俺は躊躇いがちに小さく頷く。
「…もう何もしないよ。逆にして欲しい事があれば、僕を良いように使ってくれてもいい。って言っても無理か…。散々ひどい事をしてきたからね。そもそも、凛が今、こんな事になってるのも僕のせいだし…。でも、このままもう少し傍にいさせて欲しい。怖い事はしないと約束する」
「……」
鉄さんが、何を思ってるのかはよくわからないけど、俺の命を狙う事はしないらしい。でもやっぱり、鉄さんを完全に信用する事は出来ない。ただ、彼がここにいることで、銀ちゃんの事を考え過ぎないでいられるのは助かると、少しだけ思った。
この日から、俺と鉄さんの奇妙な関係が始まった。
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